EVは部材メーカーの主役交代を迫る

世界で初めての内燃機関による自動車がドイツで誕生したのは19世紀末。
その後、内燃機関車は100年以上に亘って順調に生産を拡大してきた。

しかしここに来て根本を揺るがすニュースが流れた。
フランスに次いで英国が2040年にガソリンなど化石燃料で走るエンジン車の販売を禁じる方針を発表したのだ。
また米国、中国、欧州も排ガス規制を強め、自動車メーカーはの開発と生産を加速する要に迫られており、当面は電気自動車(EV)に移行しして行くであろう。(最終的にはFCV?)

現在EV車を販売している会社は、日本では日産、三菱、米国ではテスラ、欧州ではVW他多数ある。(国、車種、内容等はここからご参照)
この様な状況の中、先日EVで出遅れているトヨタとマツダが新EVを開発する目的で提携した。
この様な状況によりEVに必須の電池関連部材やモーターなどで高い技術を持つ部品メーカーには大きなチャンスが到来したことになり、新たな主役になろうとしている。

国内にはEV向けの中核部品や素材で高いシェアを有する企業が多く存在する。

最も主要な部品であるリチウムイオン電池は、既に普及している民生用は日本が開発、製品化しながら現在韓国企業に席巻されてしまった。
しかし安全性・高機能・大容量が求められている車載用は日本がまだ優位にありこれからだ。

現に米国のテスラ車には、パナソニックが米国に工場を建設(ギガファクトリー、ネバダ州)し、テスラ車全量に納入しいる。先日テスラ社がモデル3を発売したことは大きなニュースとなった。

ガソリン車に必要な部品点数は約3万個だが、EVはエンジン関連などガソリン車の約4割の部品が不要になると言われている。

ガソリンエンジン部材とメーカー等は次の通り、
1.エンジン系
・ピストンリング・・・リケン、TPR、日本特殊陶業
・燃料噴射装置・・・ケーヒン、ミクニ
2.駆動系その他
・駆動系・・・エクセティ、エフ・シー・シー、アイシン・エイ・ダブリュウー
・マフラー等・・・住友理工、フタバ産業

一方、電気自動車EVのおもな部品は、
リチウムイオン電池、モーター、充電インフラ、インバーターに大別される。
それぞれの部品の部材とメーカーは次の通り。
1.リチウムイオン電池
セパレーター・・・旭化成、東レ、
正極材・・・・住友鉱山、戸田工業
負極材・・・日立化成、JFEケミカル
電解液・・・三菱ケミカル、宇部興産、三井化学
2.モーター
・駆動用モーター・・・明電舎、日本電産、安川電機、日立オートモーティブシステムズ
レアアース磁石・・・信越化学、日立金属
電磁鋼板・・・・・・・新日鉄住金、JFEスチール
3.インバーター
・明電舎、カルソニックカンセイ
4.充電インフラ
・日本ユニシス、豊田自動織機
5.その他
パワー半導体・・・富士電機

その成長性の期待から上記会社の株価も近年大きく上昇しているところが多く、今後も継続的な伸び及び新規な企業の台等も予想される。

いずれにせよ、環境規制、排ガス規制の強化で、EV車市場は今後急速に普及していくと予想されている。

一方高度な技術が必要であった内燃機関関連部品が不要となり、今後の産業構造が大きく変化して行くことになる。

(日経7.28参照)

 

発火の心配ない次世代リチウム電池

現在リチウムイオン電池は、スマートフォンやパソコン、電気自動車などに使われ最も普及している2次電池だ。しかもこれから更に自動車用、蓄電用に大きく伸びようとしている。
しかし、最大の問題は発火の恐れがあることだ。

リチウムイオン電池の構成は正極、負極、電解質、セパレーターだが、
この電解質が現在は有機物を使用しているため(リチウムを使うため水系溶液は使えない)、発火の可能性があるということだ。これまで発火事故が各地で生じた。

その後構造面、システム面が改良はされたようだが有機物電解質を使う限りに置いては危険性を抱えたままだ。

かと言ってリチウムイオン電池に取って代わる電池はすぐにはなく、当面は更なる高性能化のために、正極、負極等部材の研究も行ないながら、発火防止の研究が進められてきた。

今回東京工業大学の菅野了次教授は次世代の電池と言われる電解質が固体の『全固体電池』を開発し、注目が集まっている。

全固体電池は発火の危険性が極めて低く、またこれまでの電池よりも容量を大きく増やせる可能性もある。
実は菅野教授は6年前に全固体電池の開発に成功している。
固体は液体よりイオンが流れにくく、電流を取り出しにくいことが課題だったが、2011年、電解液に匹敵する性能の固体の電池材料を作ることに成功した。
ただ、高価なレアメタルであるゲルマニウムを使っていたため、コスト面に問題があった。

今回はスズ(錫)ケイ素といった安価な材料を組み合わせ、室温下電解液並の性能を持つ材料を作ることに成功した。
安価な材料を使用することで、コストが大幅(3分の1以下)に下がる見通しだ。

以上がニュースの概要だが、しかし実用化が10年後というのは一寸遅すぎでは。
開発したと大々的に公表したからにはすぐ少なくとも数年後に実用化しないと
どこかの国に追い抜かれそうで心配だ。

TV朝日NEWS

 

再生エネを空気に貯める、空圧電池の実証実験

電力を貯蔵することについては、
少量では昔からアルカリ乾電池など各種乾電池や、最近ではリチウムイオン電池
新しいところではナトリウム硫黄電池などがあり、
中容量電池として鉛蓄電池や、リチウムイオン電池、酸化還元反応を活用するレドックスフロー電池も開発されつつある。

一方大量の電気を化学物質等を使わず安全に貯める方法としては、これまで揚水発電が用いられてきたが、最近これまでの方法とは全く異なる方式が注目され実証実験が行われている。

それは「空圧電池」とよばれ、圧縮空気を利用し大量の電気を貯める方法で、原理としては極めて簡単ではある。
すなわち余剰電気として送られてきた電気で圧縮機を動かし大きなタンクに空気を押し込み溜めておく。電気が必要な時はこの圧縮空気を放銃し発電機を回し電力を得る。

今回実証実験を行ったのは、エネルギー工学研究所NEDO早稲田大学らが
神戸製鋼所の装置を使って静岡県伊豆の河津町で実施した。

空気は10気圧でタンクに押し込まれた。装置の貯蔵能力は1千キロワット。圧縮機を動かす電力は近隣の風力発電所から送った。
2018年度末迄実験を続けて性能を評価する。


空圧電池実証実験装置(下記参照サイトより)

尚空気を圧縮し貯蔵する時は空気の温度が上がり、発電する時は膨張のため温度が下がるので、温熱や冷気として回収出来る。
これは断熱圧縮断熱膨張という原理で、色々な機器に応用されている。
(断熱圧縮は、自転車の空気を入れた時空気ポンプの下が熱くなっていることで実感出来ますね)
この技術の特徴は、媒体として空気しか使わないので、安全性が高く、寿命も長い。

空気を使う電力貯蔵技術を他の方式と比較した概要を下表に示す。

<電気を貯蔵する技術の主な性能比較>
圧縮空気
エネルギー
貯蔵
リチウム
イオン
電池
鉛蓄
電池
NAS
電池
レドックス
フロー
電池
充放電
効率
55~
70%
85~
95%
75~
85%
75% 70%
コスト
耐用年数 20年以上 6~10年 15年 15年 15年
安全性
設置面積
(日経新聞(2017.7.2)より転記)

再生エネルギーの普及につながるこれら電力貯蔵技術は今後とも開発競争が激化しながら技術向上が図られ、適材適所で使われる様になってゆくと考えられる。

安全性、原理の単純性、耐用年数などからこの「空圧電池」の今後の発展が期待される。

<参考サイト>
圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)システムの実証試験を開始

 

 

 

 

最近のアンモニア研究について

アンモニア(NH3)が注目されている。
アンモニアは生活環境の中では嫌われ者だが、人間が生活して行く上では無くてはならないものなのだ。
日常生活中ではアンモニアの重要性は分かりにくいが窒素供与物質として、これまで大量の肥料として世界中の農業で食料の増産を助け、人類を食糧危機から救ってきた。
また様々な食品、医薬品や化成品の原料として利用される等極めて重要な物質なのだ。
しかし近年は別の新しい応用が注目されている

1.火力発電所の燃料として
化石燃料を燃やして発電する火力発電では、大量の温暖化ガスである二酸化炭素CO2を排出する。
この化石燃料の変わりにアンモニアを使えば炭酸ガスは出さない。だが窒素酸化物(NOx)がでる。
さらに発電所では排出濃度5PPM以下の規制があるのでこれをクリアすることが課題となっている。
2.燃料電池の燃料として
燃料電池と言えばその燃料は水素(気体)だが、その製造方は現在いろいろな方法がある。
また水素は取扱い(運搬や貯蔵)が難しい(高額の設備が必要)といった問題がある。
そこで燃料としてプロパンと同様の貯蔵・運搬等の取扱いが容易なアンモニアから水素を取り出して燃料電池とする方法が注目されている。

3.新規触媒の開発によるアンモニア新合成法

アンモニアの新しい製法が現在非常に注目されている。
それは、アンモニアは以前のブログにも書いたが100年前に開発されたハーバー・ボッシュ法(後記参照)が現在なお使われているのだ。これまでにも各種の方法が開発されてきたが、採用された方法はない。
しかしながら、ハーバー・ボッシュ法は、鉄系触媒の下、高温、高圧(約400℃、200気圧)という非常にエネルギーを使う方法なので大型のプラントが必要だった。(其のために貯蔵、運搬等の設備も必要となる。)
従ってより小スケールでも生産できる省エネルギー合成法が求められていた。

ところが2015年東工大の細野教授らが開発した新触媒が、求められている新規の合成法となることが分かったのだ。
この触媒を使用すればハーバー・ボッシュ法より大幅な省エネルギー(350℃、常圧(1気圧))での合成が可能なのである

細野教授の今回の触媒発見までの詳細な経緯及び触媒組成、メカニズム等は後記文献に譲るが、
概略を記すと次のようである。

・名古屋工業大学の助手の時学生たちが作っているセメントが白い原料にも拘らず着色していることを不思議に思ったこと。
・その後そのセメント物質C12A7(12CaO・7Al2O3)が面白い性質を持つため徹底的に研究した。
・其の物質がカゴ構造であることを解明し、更に中に酸素イオンがトラップされていることを発見した。
・その酸素イオンをチタン金属と反応させ、TiO2となった後にカゴ内に電子がある、いわゆる電子化物(エレクトライド)(C12A7/e)に変えた。
・これがかつて有名になったセメント材料が超電導体になった話だ。
・細野教授はもともとアンモニア合成に興味をもっていたのでアンモニア合成に使えないかと考え、ルテニウム金属の微粒子をそのエレクトライドのカゴの上に載せた(分子的に)物が、これまでのアンモニア合成触媒の10倍位上の性能を持っていることを確認した。(ルテニウムRuは既に触媒として実績がある金属、周期律表で鉄の下)

(東工大資料より)

・触媒のメカニズムとしては、まずルテニウム微粒子が表面に窒素分子と水素分子を吸着し、水素分子を切断して水素原子を内部のカゴに取り込む。次に窒素分子の三重結合を切断し、カゴから出てきた水素原子イオン(マイナス)と反応しアンモニアとなり、カゴには電子が残りエレクトライドとなる。つまり触媒に戻る。
エレクライドのカゴが水素を可逆的に出し入れすることで、触媒の寿命を縮めるルテニウムの水素被毒を防いでいる。

新触媒による新規アンモニア合成法は、省エネで少量生産に適しているので、必要とする場所で、必要な量だけを生産するオンサイト生産に適している。
今後アンモニアを原料とする各種工場内で、この方法での生産設備が稼働する様になると考えられる。

<ハーバー・ボッシュ法>
 鉄鉱石などを触媒に大気から窒素を取り出 し、水素と反応させてアンモニアを合成する 方法は、発明したフリッツ・ハーバー(1868- 1934)とカール・ボッシュ(1874-1940)の 2人のドイツ人科学者の名をとって「ハー バー・ボッシュ法」と呼ばれる。
20世紀初頭 に生まれたこの合成法は高温・高圧下でメ タンから単離した水素大気中の窒素から、 鉄を主体とした触媒を用いて合成し、液体 のアンモニアを得ることができる。
現在でも 工業的なアンモニア合成法の主流である

上記の参考としたサイトを紹介します。
・細野教授出演NHK「サイエンスZERO」、
動画

<更に詳しく知りたい人への推奨サイト>
・推奨サイト1.(今回の技術を非常に分かり易く説明した動画.)
アンモニア合成 一世紀ぶりの新発明

推奨サイト2
「100年不変のアンモニア合成法を 大きく変えるか? 新触媒の開発」

・尚ウィキペディアはハーバー・ボッシュ法での鉄系触媒の内容が興味深い。

 

 

尚、次のアンモニア関連記事の予定
アンモニア新製法の実用化他

 

 

セルロースナノファイバーCNFの各社開発概況

今年2017年は植物由来の新素材セルロースナノファイバー(CNF)が本格的に実用化に入る年と言われている。
これまでも当ブログでポスト炭素繊維と言われているCNFに関する記事(最後に記載)を書いてきたが、CNFは炭素繊維と違い原料が植物なので環境負荷が低く資源的な問題もない。CNFに取り組んでいる会社は製紙会社以外にもあるが、その状況について概略を紹介する。

<製紙会社>
1.日本製紙
石巻工場で国内最大のプラント(年産500トン)を生産する体制を整えた。
年内には静岡県で樹脂の強化剤、島根県でも食品・化粧品の添加剤として生産を始めた。
2.中越パルプ工業
鹿児島県川内工場で100トンプラントを立ち上げる。
4月に丸紅と用途開発と販売で提携した。
3.王子ホールディングス
透明度の高いシートを作り、立体的に整形する技術を開発。
ガラスや樹脂等の既存の素材の代替需要を狙い、医療用途の開発を進めている。
4.大王製紙
従来設備で製造するCNFは通常水を含んだゲル状のため、石油由来の樹脂とは混ざりにくかったため、今年中に粉末にする設備を愛媛県の三島工場に導入する。
年100トンの生産能力の内数十トンの粉末化に対応可能。
大王製紙は主に産業用途での実用化に主眼を置く。パルプ繊維とCNFと混ぜ合わせたシート素材で自動車部品や建材用を狙う。
20年には三島工場で大規模な量産プラントを新設する計画。

5.北越紀州製紙
特殊な薬品でスポンジ状にしたCNF発泡体を開発。断熱材の開発
6.特殊東海製紙
リチウムイオン電池のセパレーターで実用化を狙う。
7.天間特殊製紙
家具等の表面に使う「化粧板原紙」や金属に傷が付くのを防ぐ保護紙を製造している。 紙力増強剤としてCNFを数%配合することにより紙の表面強度を20%程高く出来るガ同じ強度なら薄くでき製造コストを下げることに繋がる。

<化学メーカー>
1.第一工業製薬
化学処理で作るCNFの実証プラントを新潟県に持つ。
15年CNFをインクの増粘剤に使ったボールペンを三菱鉛筆と実用化した。
2.旭化成
CNFを使った不織布製品の研究を進めている。不織布はそのまま使用したり、樹脂を含浸させて強化樹脂とする。原料はパルプの他同社製品ベンベルグ原料である綿花由来の再生セルロース繊維もある。
3.三菱ケミカル
京都大と不織布製品の共同研究を進めている。この程両者が持つCNF関連の特許を外部へライセンス販売を始めた。
最大の課題はコストだ。現在1kg当たり数千円から1万円する製造コストを下げないとポスト炭素繊維としての普及はおぼつかない。
今後は製造技術開発と用途を増やして量産効果によるコスト低減を測る必要がある。
経産省は30年までに1kg当たり500円程度への削減を目指す。
(上記記事は日経産業新聞他を参照した)

世界の森林国はこぞってCNFを研究しており、国内及び外国の研究の進展、新用途開発、量産、低コスト化等に着目して行きたい。

<これまでのCNF関連ブログ>
植物が原料の新素材セルロースナノファイバー(CNF
竹で新素材

 

 

 

 

 

水銀ランプ代替LEDの開発状況

青色LEDで日本人3名がノーベル賞を受賞したことはまだ記憶に新しい。

この青によるLEDで既に開発されていた赤、緑のLEDと合わせ、完全な色の再現(いわゆる光の3原色)が出来る様になり、ディスプレイ商品の色表現が飛躍的に拡大した。
また白色光も三原色を使わずとも、青色LEDと黄色の蛍光塗料の組み合わせで作れるようになった。

光の波長は長い順に、赤→緑→青となるが、当然其の青より短い波長を発光するLEDも順に開発され、更に現在はもっと波長の短い領域のLEDの開発に移っている。

一般に紫外(線)は人間が直接浴びる影響は悪い場合が多いがが、工業的には重要であり、各社・機関が競ってその開発を行っている。

紫外線は波長 400–200 nm の近紫外線(near UV)、と波長 200–10 nm の遠紫外線と分けられる。
近紫外光は次の様にA、B、Cの3つの領域に区分されている。
UVA(320~400nm)、UVB(280~320nm)、UVC(200~280nm)
半導体発光素子では、200nm~350nmを深紫外といっている。

用途的には
・VAは樹脂硬化・接着や速乾印刷・塗装、コーティング、3Dプリンターなどに、
・UVBは、アトピー治療などの皮膚治療、農作物の病害防止、
・UVCは殺菌・浄水などに用いられる。

特に近年殺菌能力を有するUVC-LEDが注目されている。
というのはこれまで工業用水や民生用機器での殺菌には水銀ランプが使われていたが、
国際条約で毒性のある水銀を使用した機器の製造・輸出・輸入が2020年以製造降禁止となったため水銀ランプに替わる光源としてUVC-LEDが一躍注目されるようになった。

UVC-LEDの波長は265nmや275nmや280nmが多く採用されている。

これまでにUVC-LEDは開発はされていたが、殺菌光源として十分な出力を有するLEDが開発されていなかったが、半導体素子の基板素材や電極等の改良による発光量の増大、内部での吸収の低減、反射の増大等の改良により従来の出力レベルを大きく上回る成果が出て来ている。

理化学研究所:水銀ランプに迫る殺菌用の高効率深紫外LEDを実現
情報通信研究機構:150mW超(発光波長265nm)世界最高出力の深紫外LEDの開発に成功

民間会社も日亜化学工業、パナソニック、旭化成、トクヤマ(最近スタンレー電気に技術譲渡した)なども数多くあるが、特に日機装は深紫外LEDの研究・製品開発に関する情報をが発信されていたと思う。

 

今後も深紫外LEDの性能向上、量産化技術並びに更に遠紫外LED関連の情報に注意して行きたい。

 

 

 

 

 

グラフェンで赤外光が可視光に

京都大学大学院理学研究科は2017年5月22日、炭素の単一原子層薄膜であるグラフェン赤外光パルスを照射すると、5分の1、7分の1、9分の1といった“奇数分の1”の短い波長を持つ可視光が生成されることを発見したと発表した。

これは「高次高調波発生」という現象であり、グラフェン(炭素の単一原子層、厚さ0.335ナノメートル)で実現したのは初めてだという。

この現象は1980年代後半にパルス幅が100フェムト秒(100超分の1秒)の高強度のパルスレーザーを希ガス原子気体に照射すると、波長が数10分の1(周波数が数十倍)の高次の高調波が発生することが発見されていた。
しかし固体ではレーザーで物質内部で破壊が起こる(現在のレーザー加工と同じ現象)ため最近迄成功してはいなかった。

数年前に照射する赤外の領域のレーザーの波長を使うことで、破壊現象を起こさずに高次高調波を発生可能であることが報告されて以来、研究が盛んになってきた。

その報告がきっかけで固体への照射による高次高調波発生の研究が盛んになった。だが、そのほとんどは厚い固体の結晶を用いたものだったので統一的な理論モデルが決まらない状態だった。

そこで京都大学大学院理学研究科の研究チームは炭素原子の超薄膜グラフェンで高次高調波を発生させる実験を行った。

その結果、世界で初めてグラフェンによる上に記した様な高次高調波発生を実現した。
すなわち赤外光を波長の異なる可視光に変換した。

この結果はグラフェンの次世代の超高速エレクトロニクスの基幹材料としての利用や赤外光の新しい検出応用への道を開くと期待されている。

更に詳しい情報は下記をご参照。
赤外光を可視光に、グラフェンの新特性が判明
グラフェンの新しい光機能の発見

CNTでも画期的な成果が出ることを切に期待。ノーベル賞候補から遠ざからないためにも。

 

 

 

 

 

藻類を原料とするバイオジェット燃料の開発競争

ジェット機の燃料は現在ケロシン(灯油とほぼ同じもの)を主体とする石油製品であり、毎日空気中で大量に消費され其の結果として世界中で排出される炭酸ガスの約2%を排出し、地球温暖化の一因ともなっている。

この現状の改良策として、石油系燃料を使わない方法として食物となる植物等生物資源から作る動きも過去あったが、食料となるものを原料とすることのリスクがあり、藻類から抽出する研究が進んできた。
藻類は植物からより単位面積当たりの生産量が高くまた炭酸ガスを固定する能力も高いとされている。

藻類など生物資源から取った油は空気中の炭酸ガスから作ったものだから燃やしても大気中の炭酸ガスの総量は増えないとされる。

当面の目標として東京五輪が開かれる2020年に藻から生産した油でジェット機を飛ばす計画が進んでいる。
その為もあり藻類研究の進化と大量培養に向けてのモデルプラント建設が各社で進展している。

これまでかなりよく知られているのはユーグレナ(ミドリムシ)だが、その他の藻類についても技術開発が進んでおり今回はこの概況をご紹介する。

事業者 原料(藻類) 取り組み状況 関連サイト
ユーグレナ ミドリムシ 2020年東京五輪までにミドリムシから作るバイオジェット燃料を航空機向けに実用化することを目指しているユーグレナは、三重県多気町でバイオジェット燃料向けの大量培養プールを、横浜市で精製工場をそれぞれ建設。実証実験に乗り出す。 エネルギー・環境事業国産バイオ燃料計画
IHI ポツリオコッカス 含まれる油の割合が高い藻類を選定。神戸大などと共同で、品種改良で培養速度を上げる。バイオジェット燃料を製造する技術を神戸大学などと共同で開発中。20年を目途に実用化を目指す。 藻類バイオ燃料の取組み
デンソー シュードコリシスチス 酸性の環境に強い藻類を選定。愛知県西尾市の工場で培養中。16年4月から熊本県天草市内の2万平方メートル敷地で実施設備稼働。18年までに年2万リットルの産出技術確立を目指す。 バイオ(微細藻類)

日刊工業新聞

Jパワー ルナリスソラリス 2種類の海洋珪藻を使用。春から秋は水温15℃から45℃に住むソラリス株、冬は水温4℃から25℃で低温に強いルナリス株を使い分ける。北九州市で年間1000Lの油を生産し培養から抽出まで一貫生産出来る体制を整備。 解説
NEDO
(新エネルギー・産業技術総合開発機構)
ポツリオコッカス他 国の研究機関として自身及び大学・民間企業に委託・補助の共同でバイオ燃料事業を引っ張る。
鹿児島市七ツ島に1500㎡の屋外 微細藻大規模培養施設を建設しコスト低減に向けたバイオ燃料開発を推進。
NEDOにおけるバイオ燃料製造技術開発の取組み

ユーグレナ
2020年東京オリンピックでバイオジェット燃料を搭載した航空機を飛ばす予定。6月1日より工場建設着手する工場はミドリムシから搾っった油でジェット燃料を精製する日本初の設備となる。
ただ生産量は年産125キロリットルとまだ少なくあくまで実験工場としての位置付けだ。本格的な立ち上がりまではまだ時間を要するが、それまでは現在好調な機能性食品や化粧品のほか、農業用飼料で凌ぐ。

IHI
ボツリオコッカスという藻類を使用する。この藻類は乾燥重量に対する油の含有量が50%以上という。
今年3月鹿児島市に1500平方メートルの培養地を建設した。20年には海外で数百ヘクタール規模の施設で生産する計画。

デンソー
シュードコリシスチスという藻類の屋外大量培養に着手した。18年に年2万リットルのバイオジェット燃料生産を目指す。

欧米の航空会社には既にバイオジェット燃料を使用しているところもあるが、その殆どが廃食油なので、供給が不安定であり、本命である藻類からの実用化が世界的に注目され期待されている。

普及に向けての最大の課題は製造コストであり、生産規模の拡大や品種改良その他のあらゆる手段により現在の価格(約100円/L)程度に下げられるかどうかに掛っている。

今後の各社の動向に要注目だ。(5月18日経産業新聞他各社サイトより)

5月19日リリースの最新情報によると
ユーグレナは5社と資本提携しバイオ燃料の開発を急ぐ。
詳細は以下ご参照。
“藻類を原料とするバイオジェット燃料の開発競争” の続きを読む

新規仲間入りナノカーボン、カーボンナノベルト

これまでに発見され、現物の素材が入手できるナノカーボンの基本素材としては
1.炭素原子60個からなるサッカーボール状分子のフラーレン
2.炭素原子の六員環が筒状のシート構造のカーボンナノチューブ(CNT)
3.炭素原子の六員環が単層のシート構造のグラフェン
の3種がある。
今回これに新しく合成に成功に成功したナノカーボンであるカーボンナノベルト(CNBなのだろうがまだ正式には未使用のようだ)が仲間入りした。

このカーボンナノベルトは、約60年前に既に理論的に存在が予想されていたが、自然界になく、人工合成を世界中の化学者が挑んで来たが、炭素の六員環を歪ませて結合させるのが難しいことから誰も成功していなかった。

このような状況の中で、この度名古屋大学の伊丹健一郎教授らが始めて合成に成功した。

教授らは、安価なパラキシレンを原料とし、臭素化した幾つかのパーツを結合させ最終的に炭素の6員環が12個からなる環状ベルトの合成に世界で始めて成功した。

今回のカーボナノベルトの意義は、この分子自身性質が均一であり、これを鋳型として新たな炭素を順次結合させてゆけば欠点のない純粋で均一なCNTが作れることにある。


「CHUNICHIWeb」

というのもこれまでのカーボンナノチューブ(CNT)は直径や長さが短くバラバラな混合物しか作れず、純粋な研究や産業応用上のネックとなっていた。(私見だが、ノーベル賞の授与が後から発見されたグラフェンに先をこされたのもこの点だったのかもしれない。)

カーボンナノベルト自身でも赤色の蛍光を発する発光材料としてまた他のナノカーボンと同様半導体材料としても使える可能性もある。
伊丹教授によれば「CNTが抱える諸問題を解決する”鍵分子”になる。さらに未知の機能が見つかるかもしれない」そうであるから今後の研究成果が楽しみだ。

今後このカーボンナノベルトを使って直径や長さの違った純粋、単層のカーボンナノチューブ(CNT)が作れれば、基礎研究、応用研究が急激に進み、CNTと合わせたノーベル賞となることが期待される。

参考サイト1.newsitch
参考サイト2.ITmedia News
参考サイト3.CHUNICHIWeb

線虫を使う画期的早期がん診断方法

我が国ではがんは1981年から死因第1位で、2人に1人ががんを経験し、3人に1人が
がんにより死亡すると言われている。

事実私の知人、友人にもガンでなくなった人はたくさんいる。
とりわけ悲しかったのは、親友が膵臓がんでなくなった時だ。
3ヶ月前までは全く気づかなかったのに。
膵臓がんは初期発見が困難ながんだそうで、発見した時はもはや手遅れと言われている最も恐ろしい病だ。

一般的にがんによる死亡を防ぐ最も有効な手段は、早期発見・早期治療だが、我が国のがん検診受診率は約30%だそうだ。
この受診率は他の先進国と比較しても低く、我が国でがん死亡率が高い大きな要因となっている。低受診率の理由としては「面倒である(医療機関に行く必要がある)」「費用が高い」「痛みを伴う」「診断まで時間がかかる」「がん種ごとに異なる検査を受ける必要がある」などが挙げられている。

現在これらの問題を全てクリアするガン検査方法の開発が進められている。

以前NHKのEテレ「サイエンスZERO」で紹介されていたのを見たが、その時は簡便な方法だと言うことは分かったが定性的過ぎて十分その凄さを理解していなかったようだ。
しかし先日のテレビで最近の状況が詳しく解説されていてこれは凄い方法だと理解した。
なぜなら簡便なこの方法はまさに上に上げた検診を妨げる要素を全てクリアする画期的な方法だったからだ。

このがん検診方法は、九州大学大学院生物科学部門の廣津崇亮助教らが線虫という生物を用いて開発した。

この方法の原理は、線虫の嗅覚を用いるもので、がん患者の尿には近寄っていき、正常な人の尿からは遠ざかるという性質を利用するシンプルな方法だ。

線虫という生物は地球上の1億種位いるそうだが、がん検診に使うのはc-エレガンスという種類で、尿は10倍稀釈で上記性質を示すそうだ。線虫を利用したこの画期的ながん診断テストは(n-nose)と呼ばれている。

この方法のメリットは
1.患者の苦痛がない:検体が尿。
2,簡便:尿を取って検査機関に送るだけ。
3.診断結果がすぐに分かる:1時間半
4.費用が安い:線虫が安く培養出来、高価な機器も使わない。
5.早期発見が出来る。
6.信頼度が高い:242検体による発見精度は95%。
などであり、
この方法の早期実用化の為、廣津助教はバイオベンチャーを起こすとともに、装置の開発を日立と進めている。
この方法(n-nose)により、ガン受診率の飛躍的増加とそれに伴う早期がんの発見率の上昇、そしてがん患者の死亡数の減少、ひいては国の医療費の大幅削減につながることが期待されている。
まさに世界が待望む技術だ。
廣津助教によれば、実用化は2019年だそうだ。

そして将来は遺伝子組み換えにより特定のガンに反応する線虫を作ることにより
がんの種類の特定も出来る様になるとのこと。
そうなればガンは“治る病気”であると認識されるようになり、世界人類全体の福音となると期待される。

本記事は下記サイトを参考にした。
参考サイト1
参考サイト2
参考サイト3