バイポーラ型鉛蓄電池は定置型の主流になるか?

これまで直近のブログでは最近急激に注目を集めてきた全樹脂電池を3回に亘って取り上げてきた。

この全樹脂電池はバイポーラ型としているため、積層して使え、省スペース、余分な筐体(ケース)や配線が不要、製造工程がシンプル等の特徴を持ちリチウムイオン電池にくらべ大幅なコストダウンができるとされている。そしてその用途としてAPB社は再生エネルギー保存用としての定置用を狙っている。

この定置用電源は今後の再生エネルギーの増大に対応電源として非常に大きな市場(2019年の3000億円から2030年には8000億円規模)になると予想されており、現在稼働中のものも含めいろいろな電池が候補に上がっている。
(以下の図は最後の参考サイトから引用)

この定置用電源として、従来型(有機液体電解質使用)のリチウムイオン電池はリサイクル性と安全性に問題があり、更にまだコストが高いとされており、最近バイポーラ型全樹脂電池が注目されている。

しかし、実は以前からずっと注目されていた電池がありました。

それは鉛蓄電池。鉛蓄電池は誰でも知っているように現在も一般ガソリンエンジン用の12Vの主バッテリーとして、またEV用でも補助バッテリーとして重要な役割を演じており、“枯れた技術”とされていているが、この鉛蓄電池のバイポーラ型製造が研究されていた。

考えられているバイポーラ型鉛蓄電池の特性は下図の様に理想的ともされている。

しかし実用化のための3つの大きな技術的課題がありこれまで実現していなかった。
その3つの課題とは
①「鉛箔の薄膜化と長寿命の両立」
②「樹脂プレートの成形と接合技術」
③「鉛箔と樹脂プレートの異種材料接合」

これらの課題は古河電気工業のメタル/ポリマー技術および古河電池の電池/加工技術を駆使することで解決され、ついに「長年実用化困難とされたバイポーラ型蓄電池の量産実用化のめどが立った」としている。

最終的に公開されているバイポーラ鉛蓄電池のデータは以下の通り。

  バイポーラ型蓄電池の概要

APB社バイポーラ型全樹脂電池についてもこの形のデータ(特に寿命データ)を入手したい。


古河電工Gは鉛バイポーラー電池を2021年度中にサンプル出荷、2022年から製品出荷し、電力事業者、発電事業者を中心に展開する予定。

APB社も2021年中に生産開始することを公表していますが、コロナ禍の問題もあり両社とも進展が遅れるかも。

”枯れた技術”による鉛バイポーラー電池と最新技術とされる全樹脂電池(APB)両バイポーラ電池の今後の推移に注目して行きたい。
(上記本文と図は以下のサイトより適宜引用した)

<参考サイト>
・◎再生エネ活用の本命「バイポーラ型蓄電池」
・◎実用化困難とされた「バイポーラ型蓄電池」を量産へ
鉛バッテリーがリチウムイオン電池を超える、古河電工がバイポーラ型蓄電池で
再エネ用蓄電池の本命か? リチウム電池を超える新型鉛蓄電池が量産実用化へ
・◎“枯れた”鉛蓄電池でリチウム電池超え、古河電工が22年量産へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日産から飛び出した全樹脂電池技術のもう一つの行先は中国

日産が電気自動車EVを発売したのは2010年だが、当時日産はリーフ用電池を外部から調達できず電池は内製するしかなかった。

しかし近年、内製より低コストで調達できる外部環境が整ったため、日産はEV用電池を自社で開発・製造するのではなく外部から調達する方針に変更した。

2020年に量産を始める予定のEV専用の新プラットフォーム(車台)を適用した新型車からは外部の電池メーカーから積極的に調達する方針だそうだ。

この方針転換で、これまで日産社内で電池開発を担当する技術者にとっては優れた技術を開発しても内製できる可能性が殆どなくなったため、多くの電池技術者が日産を離れた。

その一人が堀江英明氏
同氏は1990年に全樹脂電池の構想を始め2018年日産を飛び出してAPBを立ち上げた。そして19年2月には三洋化成工業の子会社となり全樹脂電池の開発・生産を共同で進めることになった。そして資金を集め2021年には量産を開始する計画を打ち出した。(ここら辺の状況についてはこれまでのブログをご参照。)

 一方堀江氏とは別に日産から飛び出したのは
技術者の他に日産の子会社として電池生産を担当してきたオートモーティブエナジーサプライ(AESC。同社は中国の再生エネルギーの大手であるエンビジョングループの傘下に入りエンビジョンAESCグループとして2019年4月に再出発した。

同社は2020年12月から新型電池の量産開始を予定しておりその最大の特徴はセル形状ドイツ自動車工業会(VDA)規格に合わせたことだ。
VDA規格(付記参照)の電池は欧州の各自動車メーカーが既にEVに搭載しており、現在CATL韓国LG化学などが供給しているが、エンビジョンAESCグループはこの一角に入ることを狙っている。

新工場の場所は中国の無錫市。同社の現在の生産能力は日米欧で7.5ギガワット時であるが、これを2023年までに20ギガワット時まで生産量を増やす強気の戦略を描く。

(以上日経クロステック2020年4月23日付け記事/6月8日付け日経産業新聞6月8日付より抜粋)

詳しくは同誌をご参照ください。

 

最後に、日産を飛び出した電池技術がそれぞれAPB/三洋化成工業の静置型大型電池狙いとアンビジョンAESCグループのEV用途向けとなったわけであるが両社の今後の行方に注目して行きたい。

 

<付記>
VDAに関して
1.簡単
2.わかり易い
3.ウィキペディア

 

 

 

 

 

日産自動車、全樹脂電池特許をAPBにライセンス供与

これまで全樹脂電池に関しては過去3回の記事でその概要は知ることが出来た。
そして21年以降大量生産に移行する計画も立ち上がったことも知った。

しかしはっきりしない懸念部分もいくつかあった。
其の一つがAPBの堀江社長が日産在籍中やその後慶応大大学院での日産との共同研究での特許の件だ。
当然これらの特許はAPBが単独で自由に使えるものではない。大量生産に当たるに際し、これら特許技術の使用条件に関する情報がなかった。

この度、4月16日付けで日産自動車は表記のように、全面的にAPBにライセンス供与することになりこの問題はスッキリした。

以下、下記に添付した日産のニュースサイトとメディアのサイトから抜粋した部分にこれまでの情報をあわせてご紹介します。

以下抜粋と追加文で再構成
日産自動車は2020年4月16日、次世代リチウムイオン電池の1つである「全樹脂電池」を開発するAPBと、バイポーラ電極構造の全樹脂電池の要素技術に関する特許やノウハウの実施許諾契約を締結したと発表した。
APBは日産自動車と全樹脂電池を共同開発してきた三洋化成工業とも同様の契約を結んだ。これによりAPBは非自動車用途における全樹脂電池の開発と製造、販売を行えるようになる。
APBは今回のライセンス契約の締結によって「全樹脂電池の根幹となる革新的な技術群を得ることができ、本格的な生産に向けた基盤が整う」(堀江氏)とし、定置用蓄電池の製品化に向けて動き出す。また、日系企業7社から80億円の出資を受けて、1年間にギガワットアワー(GWh)規模の電池を生産する工場を日本国内に建設する。

日産自動車は2002年ごろから全樹脂電池の研究を本格的に開始しており、現在も取り組んでいる。今後も全樹脂電池の研究開発を継続するそうだ
三洋化成工業も、引き続き全樹脂電池に経営資源を投入し、APBと共同で開発を進めていく。
尚、三洋化成は高吸収ポリマーで世界首位の日本触媒と今年10月1日に予定していた統合(新会社シンフォミクス))を来年4月1日に延期した。

今回の発表資料で使用された図(A図)がちょっと気になりました。
A図
全樹脂電池はバイポーラ電極構造を有する全樹脂電池であり
「バッテリーセルの表・裏面をそれぞれ構造体であると同時に正極・負極の機能を有する樹脂集電体で形作り、複数のセルを重ねることで、バイポーラ構造の組電池の構成を可能とする要素技術」とされている。
使用されたA図は全樹脂電池のケース自体が電極で有ることが分かり難く理解し難い図だ。
B図
対して、B図は上記で説明されている両側のケース自体が正負の電極になっていることがわかり易いと思うが。

<参考>
APBの代表取締役社長の堀江英明氏は日産自動車に1985年に入社し1990年以降日産自動車で電動車用高性能電源システムの研究開発で「リーフ」のリチウムイオン電池開発に携わり、2012年からは電気自動車の電源システム開発に従事しながら東京大学の特任教授を兼務していた。全樹脂電池は同氏が1990年代から構想し、2012年から日産自動車と三洋化成工業が共同で要素技術の研究開発を進めてきた。
【堀江英明氏による全樹脂電池のコメント】
「従来、電池のデザインにおいて、電流を通す端子や集電体は、抵抗を低減するための部材として金属であることが必須と考えられてきました。我々は今回、世界で初めて、集電体を含めた電池骨格を全て樹脂材料で再構築し、またバイポーラ構造を採用することで、出力は従来同様に確保しつつ、異常時においても電池内部での急激な発熱・温度上昇を抑制する、世界初の電池デザインとそれを支える一連の革新的な技術群を創出し、この高性能電池を『全樹脂電池』と名付けました。」

全樹脂電池は、
電解質と電極を樹脂に置き換えることで安全性を向上する。バッテリーセルは、構造体であり電極の機能をもった樹脂集電体で構成する。バイポーラ電極はセルケースと密着しており、セルケースの外側から広い面積を使って電気を流すことができる。容積あたりの充電容量を増大する。また、「電極の断面積が広いほど抵抗が下がるため、効率よく電気を出し入れできる構造だ」(日産自動車)としている。このようなセルを複数重ねることで組電池となる。従来のリチウムイオン電池と比べて構造がシンプルになるため、コスト低減が図れる。コスト低減によって定置用蓄電池が普及すると、深夜電力や再生エネルギー電力の有効活用が進む。ピーク時の電力消費の抑制や、安定した効率的な電力活用の実現にもつながるとしている。

懸念事項その2は
やはり2次電池としての性能特に蓄電容量、充電速度、特に耐久性繰り返し充放電による劣化等)のデータです。

電池容量については当初(2019.6.3の記事)ではリチウムイオン電池が300Wh/Lに対し
最大560Wh/Lとされていましたが、量産計画発表時での性能は300Wh/Lとされていて
ほぼ現在のリチウムイオン電池並です。
しかし充電速度や特に耐久性についてはこれに言及した発表記事は見かけないようですのでちょっと気がかりではあります。が、21年には量産に移行する計画なのですから、筆者が入手出来てないだけでベストデータは然るべきところに出ていると思います。

尚、この樹脂電池の市場はエネルギー事業者が長期間に亘って使用する「定置用」が最も狙い目なのでしょうが、「魅力あるがハードルが高い」EV用に対し、「魅力もありハードルも低そう」なこの市場は多くの競合製品が虎視眈々と狙っているはずです。
今のところ製品コスト的には最も有望そうではありますが・・・。
第2、第3の市場も考えて置く必要もありそうです。
全樹脂電池の特徴を活かせる民生用、工業用分野が必ずあるはずです。

今後、最強ライバルと考えられる全固体電池の動向とも合わせ、全樹脂電池の行方を追って行きたいと思います。

 

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下記サイトは日産のテクノロジーライセンスの全体がわかるサイトですので
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