日産自動車、全樹脂電池特許をAPBにライセンス供与

これまで全樹脂電池に関しては過去3回の記事でその概要は知ることが出来た。
そして21年以降大量生産に移行する計画も立ち上がったことも知った。

しかしはっきりしない懸念部分もいくつかあった。
其の一つがAPBの堀江社長が日産在籍中やその後慶応大大学院での日産との共同研究での特許の件だ。
当然これらの特許はAPBが単独で自由に使えるものではない。大量生産に当たるに際し、これら特許技術の使用条件に関する情報がなかった。

この度、4月16日付けで日産自動車は表記のように、全面的にAPBにライセンス供与することになりこの問題はスッキリした。

以下、下記に添付した日産のニュースサイトとメディアのサイトから抜粋した部分にこれまでの情報をあわせてご紹介します。

以下抜粋と追加文で再構成
日産自動車は2020年4月16日、次世代リチウムイオン電池の1つである「全樹脂電池」を開発するAPBと、バイポーラ電極構造の全樹脂電池の要素技術に関する特許やノウハウの実施許諾契約を締結したと発表した。
APBは日産自動車と全樹脂電池を共同開発してきた三洋化成工業とも同様の契約を結んだ。これによりAPBは非自動車用途における全樹脂電池の開発と製造、販売を行えるようになる。
APBは今回のライセンス契約の締結によって「全樹脂電池の根幹となる革新的な技術群を得ることができ、本格的な生産に向けた基盤が整う」(堀江氏)とし、定置用蓄電池の製品化に向けて動き出す。また、日系企業7社から80億円の出資を受けて、1年間にギガワットアワー(GWh)規模の電池を生産する工場を日本国内に建設する。

日産自動車は2002年ごろから全樹脂電池の研究を本格的に開始しており、現在も取り組んでいる。今後も全樹脂電池の研究開発を継続するそうだ
三洋化成工業も、引き続き全樹脂電池に経営資源を投入し、APBと共同で開発を進めていく。
尚、三洋化成は高吸収ポリマーで世界首位の日本触媒と今年10月1日に予定していた統合(新会社シンフォミクス))を来年4月1日に延期した。

今回の発表資料で使用された図(A図)がちょっと気になりました。
A図
全樹脂電池はバイポーラ電極構造を有する全樹脂電池であり
「バッテリーセルの表・裏面をそれぞれ構造体であると同時に正極・負極の機能を有する樹脂集電体で形作り、複数のセルを重ねることで、バイポーラ構造の組電池の構成を可能とする要素技術」とされている。
使用されたA図は全樹脂電池のケース自体が電極で有ることが分かり難く理解し難い図だ。
B図
対して、B図は上記で説明されている両側のケース自体が正負の電極になっていることがわかり易いと思うが。

<参考>
APBの代表取締役社長の堀江英明氏は日産自動車に1985年に入社し1990年以降日産自動車で電動車用高性能電源システムの研究開発で「リーフ」のリチウムイオン電池開発に携わり、2012年からは電気自動車の電源システム開発に従事しながら東京大学の特任教授を兼務していた。全樹脂電池は同氏が1990年代から構想し、2012年から日産自動車と三洋化成工業が共同で要素技術の研究開発を進めてきた。
【堀江英明氏による全樹脂電池のコメント】
「従来、電池のデザインにおいて、電流を通す端子や集電体は、抵抗を低減するための部材として金属であることが必須と考えられてきました。我々は今回、世界で初めて、集電体を含めた電池骨格を全て樹脂材料で再構築し、またバイポーラ構造を採用することで、出力は従来同様に確保しつつ、異常時においても電池内部での急激な発熱・温度上昇を抑制する、世界初の電池デザインとそれを支える一連の革新的な技術群を創出し、この高性能電池を『全樹脂電池』と名付けました。」

全樹脂電池は、
電解質と電極を樹脂に置き換えることで安全性を向上する。バッテリーセルは、構造体であり電極の機能をもった樹脂集電体で構成する。バイポーラ電極はセルケースと密着しており、セルケースの外側から広い面積を使って電気を流すことができる。容積あたりの充電容量を増大する。また、「電極の断面積が広いほど抵抗が下がるため、効率よく電気を出し入れできる構造だ」(日産自動車)としている。このようなセルを複数重ねることで組電池となる。従来のリチウムイオン電池と比べて構造がシンプルになるため、コスト低減が図れる。コスト低減によって定置用蓄電池が普及すると、深夜電力や再生エネルギー電力の有効活用が進む。ピーク時の電力消費の抑制や、安定した効率的な電力活用の実現にもつながるとしている。

懸念事項その2は
やはり2次電池としての性能特に蓄電容量、充電速度、特に耐久性繰り返し充放電による劣化等)のデータです。

電池容量については当初(2019.6.3の記事)ではリチウムイオン電池が300Wh/Lに対し
最大560Wh/Lとされていましたが、量産計画発表時での性能は300Wh/Lとされていて
ほぼ現在のリチウムイオン電池並です。
しかし充電速度や特に耐久性についてはこれに言及した発表記事は見かけないようですのでちょっと気がかりではあります。が、21年には量産に移行する計画なのですから、筆者が入手出来てないだけでベストデータは然るべきところに出ていると思います。

尚、この樹脂電池の市場はエネルギー事業者が長期間に亘って使用する「定置用」が最も狙い目なのでしょうが、「魅力あるがハードルが高い」EV用に対し、「魅力もありハードルも低そう」なこの市場は多くの競合製品が虎視眈々と狙っているはずです。
今のところ製品コスト的には最も有望そうではありますが・・・。
第2、第3の市場も考えて置く必要もありそうです。
全樹脂電池の特徴を活かせる民生用、工業用分野が必ずあるはずです。

今後、最強ライバルと考えられる全固体電池の動向とも合わせ、全樹脂電池の行方を追って行きたいと思います。

 

2019/2/15
三洋化成の「全樹脂電池」 10年後1000億円規模に 3Dプリンターで複雑な形状も

2020/04/13
日本触媒と三洋化成、統合を21年4月に延期

2020/04/16
日産自動車、先進的なリチウムイオンバッテリーの要素技術をAPB株式会社にライセンス供与

2020/04/17
◎日産が「全樹脂電池」で技術供与、ベンチャーが定置用蓄電池向けに量産へ


下記サイトは日産のテクノロジーライセンスの全体がわかるサイトですので
日産のテクノロジーライセンスについて興味ある人はどうぞ

 

 

 

全樹脂電池が量産移行へ

現在のリチウムイオン電池の欠点である発火・燃焼・エネルギー密度の問題を解決すると期待される全固体電池と平行して急遽?登場した全樹脂電池に付いて、前回の記事で当時の情報を纏めて紹介したが、いよいよ大量生産につながるニュースが3月初旬に出た。
そこで今回はおさらいを含めてその状況をご紹介したい。

1.発表内容
 三洋化成工業は4日、電池技術開発のノウハウを持つ子会社APB(東京・千代田)が国内7から第三者割当増資で約80億円を調達すると発表した。APBは福井県越前市で用地と建物を取得し、第1工場を設けた。第1工場の敷地面積は2万3733m2、延床面積は8628m2。2021年に操業を開始し、全樹脂電池の量産技術を早期に確立することを目指す。次世代電池の開発競争で先行する全固体電池などを追い、5~10年後をめどに数千億円規模の事業に育てる狙いだ。
APBは代表取締役である堀江英明氏が、三洋化成工業と共同で開発したバイポーラ積層型のリチウムイオン電池である全樹脂電池(All Polymer Battery)の製造及び販売を行うスタートアップ企業。
出資した7社とはJFEケミカル、JXTGイノベーションパートナーズ、大林組、慶應イノベーション・イニシアティブ1号投資事業有限責任組合、帝人、長瀬産業、横河電機
JFEケミカル:負極材料のハードカーボンの提供と電池開発。
JXTG、長瀬産業:様々な材料の提供。
大林組:ビルなどでの定置用電池の設置。
帝人:ナノカーボンの提供

2.全樹脂電池とは
全樹脂電池はAPBと三洋化成工業が共同開発したバイポーラ積層型リチウムイオン電池で、集電体も含めた電池骨格を全て樹脂材料で構成している。
全樹脂電池には界面活性技術を持つ三洋化成が新開発した樹脂を用いる。活物質に樹脂被覆を施し、樹脂集電体に塗布することで電極を形成している。
特徴としては、従来のリチウムイオン電池と同様の出力を確保しつつ、異常時の急激な発熱や温度上昇を抑制できる点がある。全樹脂電池は釘を打ったりドリルで穴を開けたりしても発火しない
また、独自の製造プロセスにより工程を短縮することで従来のリチウムイオン電池よりも大幅な製造コスト低減リードタイム短縮が図れる。
部品点数が少ないことに加えて、樹脂で構成することで電極を厚膜化し易いためセルを大型化し易く、高いエネルギー密度を実現している。
形状の自由度も高く、「リチウムイオン電池の理想構造」(APB)だとしている。

以下参考サイトからの引用図で説明します。

従来の電極(左)とバイポーラ電極(右)での電流の流れの比較
(従来は電流は電極につながるリード線を通って流れるのに対しパイポーラ型は面全体を通して流れる。)

電池の製造プロセスの比較
(ロールツーロール方式なので工程が少なく生産性がアップし、低コスト化につながる)

電解質の伝導度の比較(リチウムイオンの伝導度(輸率)が常温でも数倍高い)

単セルの構造とモジュールとした状態
(積層するだけで、結線や収納箱が不要なので省スペースとなり、単位体積あたりのエネルギー密度が高くなる)

全樹脂電池モジュール(左)とその内部構造(右)

上記全樹脂電池に関して、形状や生産プロセスはこれまでの情報で判るが、製品(試作品)の静置型電池としての諸性能(特に耐久性)が十分なのかどうかが今一不明なので若干の懸念を持たざるを得ない。今後全樹脂電池に関しては電池性能を主体に注目して行きたい。

 

ところで
先行する競合製品である全固体電池の開発・生産状況については
トヨタ自動車が22年からEV(電気自動車)に搭載するとされているが・・・。
一方小型全固体電池村田製作所TDKは20年中にも量産化する。
また京セラは電解液を電極に練り込んで粘土状にする独自技術を使った新型電池を20年にも本格量産するという。
しかし従来型のリチウムイオン電池もまだまだ改良(不燃化、高性能化)がなされており、更に非リチウム金属を使用する電池も開発・進化中であり、今後の2次電池の技術ニュースに目が離せない。

 

<全樹脂電池関連参考サイト>
日経2020/3/2
三洋化成、福井で全樹脂電池を量産 工場新設を正式発表

R Times 2020年3月4日
APB株式会社 次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行うAPB、約80億円の資金調達を実施

日経2020/3/4
全樹脂電池量産へ7社とタッグ 三洋化成、80億円調達

Motor Fan 2020/03/04
「全樹脂電池」ってなんだ? 次世代型リチウムイオン電池開発でAPBが80億円を調達

大林組 2020年 03月 04日
次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行うAPB社へ出資します

<最新ニュース>
2020/07/20
APB:全樹脂電池を川崎重工の自律型無人潜水機に搭載して実証試験を開始