量産車に採用される炭素繊維(CFRP)はどちらが勝つ?

炭素繊維強化樹脂(CFRP)はその強度と軽さから、これまでスポーツ用品から一般産業部品、風車のブレード、そして飛行機(ボーイング787等)に用いられてきた。

一方自動車に於いては、その軽さと強度は環境対策、燃費性能向上に於いて魅力的な素材ではあるものの、材料が高価なこと、大型部品の加工が難しい、加工時間が長い等で生産性が低いという問題から、一部の高級車・部品を除き、量産車には採用されるまでには至らなかった。

しかし近年この高価格と生産性の低さを改善するCFRP及び加工法が開発され、量産車に採用される状況になってきた。

炭素繊維強化樹脂CFRPにはこれまで熱硬化性樹脂を使うCFRPに対し、炭素繊維は同じだが熱可塑性(熱くなると柔らかくなる)樹脂を使う熱可塑性CFRP(一般にはCFRTPと略記される場合が多い)が開発された。

熱可塑性樹脂は帝人が開発したが、GMはこの熱可塑性CFRPを使い世界で初めて量産車のピックアップトラックに採用した。
熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂に比べ材料コストが安く成型時間も短いが、これまで大型部品の量産が難しいという課題があった。
それが複雑形状の大型部品を短時間(1分)の成型時間で量産出来るようになったことで量産車に採用された。
帝人とGMが6年3ヶ月の歳月を掛けてこぎつけた技術だ。

一方トヨタ自動車は採用する炭素繊維を、東レではなく三菱ケミカルのCFRPに決めた。
その理由は三菱ケミカルがSMC(シートモールディングコンパウンド)工法をもっていたからだった。(尚東レは2014年トヨタの燃料電池車ミライの水素貯蔵タンクや円筒シャフト等の部品を提供してはいるが大型成型品ではなかった)

SMC工法とは、2~3cmに切断した炭素繊維をエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に分散させたシート(SMC)を使い、同シートを加熱しながらプレス成型して製品をつくる方法。
特徴は複雑な形状の部品が成型出来ること、量産対応が可能なこと。

ただしカット繊維を使っているため、強度的には低くなるため、SMC工法による部品自身で強度が足りない場合は、カットしてない長繊維でのプリプレグや、長繊維で作った織物を片面に充てがい樹脂成型して強度を補強する方法が取られている。

熱硬化性CFRPは部品や高級車ボディーへの一部採用で先行してきたが、
GM・帝人で車体に採用が決まった熱可塑性CFRPが追い上げてくる可能性が高い。

車の軽量化の手段として、これまでの材料である高張力鋼(ハイテン)板やアルミ合金が使われてきたが、軽量化を目的としたその使用量の低減には自ずと限界がある。
一方高張力鋼の引張り強さは、炭素繊維の長繊維の併用で十分補強でき、アルミ合金部品には素材単価はかなわないとしても、多くの部品からなるものであれば、CFRPの一体成型によるコストダウンが可能になる。

軽量化素材の比較

上記の理由で今後CFRPの大衆車への使用が増大して行くと思われるが、
GM/帝人の熱可塑性CFRP対トヨタ/三菱ケミカルの熱硬化性CFRPの行方が注目される。
更に、飛行機向けでは圧倒的地位を築いている東レが出遅れていた量産車へのCFRPの取り組み・巻き返しが注目される。

 


これまで車用部品、大型パネルの部材として熱可塑性CFRPが先行開発採用されてきたが、今後は可塑性CFRPが主流になっていくのではないかと一部で考えられている。

確かに加工性(生産性)、性能(強度等)、材料コスト(樹脂)、リサイクル性等が熱硬化性CFRPより優れていればそうなるのは必然だが、しかし私にはどうしても気になる点がある。
それは.異常高温環境下での形態安定性保持・強度不足の懸念についてだ。
熱硬化性CFRPは問題ないが、熱可塑性CFRPは成形品でも高温になると樹脂が柔らかくなる。このため常温で強度が維持されていても、火災等何らかの異常高温環境になった場合に強度が不足し問題になることはないのか。

<参考サイト>
2017年07月18日
炭素繊維とアルミ、量販車への採用を後押しする成形・加工の進化
三菱ケミカルは17年に入り、シート・モールド・コンパウンド(SMC)と呼ぶ生産性を向上したCFRPがトヨタの「プリウスPHV」の骨格部材に採用された。

2018年05月29日
プリウスにも採用、炭素繊維が鉄素材の牙城を崩し始めた理由

2018/6/14
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