水素社会での水素の輸送と貯蔵の主力はMCH法になるか

水素は燃えても水しか出さない究極のクリーンエネルギーのため
今後水素エネルギーが主体のいわゆる水素社会となることが予想されているが、
そのためには大量の水素の製造、輸送、貯蔵方法の確立が必要である。

現在水素の製造については
①天然ガスの副生、②化石燃料の分解、③水の電気分解
等各種検討されている。

③の水の電気分解については、近年特に再生エネルギー特に風力発電所の余った電力の利用が検討されている。
現状では、水を電気分解した後の粗い水素ガスは不純物(酸素等)を含んでいるため、やや複雑な精製工程が必要となっている。(千代田化工建設で2019年2月を目処に技術検証中

次に大量の水素ガスの運搬・貯蔵方法に付いては、
①水素を極低温(-253度)に冷却して液化し液体水素とする(川崎重工)、
②水素と窒素を触媒下反応させてアンモニアとする(日揮、IHI)、
③水素をトルエンと反応させてメチルシクロヘキサン(MCH)とする(千代田加工建設)
等の方法が検討されている。

以下本ブログの趣旨である③の方法に付いて記す。(①と②については後日取り上げる)

水素をトルエンと反応させMCHとする方法は体積が500分の1となり、かつ常温・常圧で液体であり、一般的な石油輸送設備で行えるため現在最も有力な方法と考えられている。

ただし、これを運んだ後使用時には逆反応で水素を取り出す必要があり、この反応には触媒が必要で、従来2、3日の耐久性しかなかったものを、千代田加工が8000時間の耐久性ある触媒を開発し、この方法が最有力候補として浮上している。

<方法の概要>は以下の通り。
まず全体のフローは以下の図の通り。(千代田加工のHPより)

1)まず各種方法で製造された水素は、トルエンと反応させMCHメチルシクロヘキサン)とする。
つまりトルエンの2重結合の部分に水素を付加し飽和炭化水素のMCHにする。
すると水素の体積は500分の1となりこの液体の取扱も非常に容易になる。
MCHは日本の消防法では、危険物第4類・第1石油類に該当する
(MCHはトルエンに比べ毒性が低く、有機溶剤中毒予防規則の対象外)

2)従って運搬・貯蔵は常圧・常温で既にある一般的な石油輸送設備・石油タンクで行える。
3)本法の技術の核がMCHから気体の水素の取り出しを行う触媒技術
千代田加工は触媒性能が従来2~3日だったのを2年程度継続しても利用効率が落ちない触媒の開発に成功し本法の実用化の目処が立つようになった。
そこで千代田加工はこのMCHを「スペラ水素」と名付けて事業化を目指している。

<参考サイト>
SPERA水素システムについて
動画スペラ水素

上述した様に水素の運搬・貯蔵は他社でも検討している。

1)川崎重工
水素を摂氏マイナス253度に冷やして液体水素とする方法を採用し、
専用の設備や運搬船を開発している。
◯「水素社会の未来を切り開く」:
-253度の液体水素を6000kmも運搬、水素社会を支える専用船が実現

2)日揮
水素と窒素を触媒反応させて作ったアンモニアを水素の運搬手段として活用する手法の実証実験を進めている。

<参考資料>
経済産業省 第9回水素・燃料電池戦略協議会向け資料

 

<付記>
なぜ水素を付加するキャリヤーがトルエンなのか。
トルエンのメチル基がないベンゼンやまたベンゼンが2個のナフタレンの方がよさそうだが?
確かにMCHの水素の貯蔵密度は理論上47.0kg-H2/m3であり、ベンゼン←→シクロヘキサン(56.0kg-H2/m3)やナフタレン←→デカリン(カヒドロナフタレン)(65.4kg-H2/m3)に比べやや劣るものの、
液体の状態を維持できる温度範囲が広い利点を持つため
ウィキベディア)より

今年2018年のノーベル賞は誰に

いよいよ今年もノーベル賞の日がやってきました。(以下当ブログは自然科学部門だけに言及します)
先ず10月1日には医学生理学賞、2日には物理学賞、3日は化学賞が発表されます。

受賞者の予想は各メディアからいろいろ出ていますので詳細は最後の参考サイトをご参照いただくとして、ここでは私見も交え選出してみます。

1.医学生理学賞
医学・生理学賞では、2012年に山中伸弥氏、そして15年に大村智氏、16年に大隅良典氏と2年連続日本人が受賞している実績があり、今年も受賞に期待が高まっています。
今年は、免疫と遺伝子関連が注目されているという。

免疫関連なら
◯体内の異物に抵抗する免疫ブレーキ役のたんぱく質「PD―1」を発見した京都大学の
 本庶佑(たすく)特別教授。
PD―1の働きを抑えれば、免疫細胞によるがん細胞への攻撃が再活性化することを
発見。これを応用した抗がん剤「オプジーボ」の開発につながった。
◯免疫が過剰に働くのを抑える「制御性T細胞」を発見した大阪大学の坂口志文(しもん)
特任教授「世紀の発見」といわれている。(T細胞は免疫の司令塔と言われもの)

遺伝子関連なら
◯ゲノム(全遺伝情報)に関する独自のデータベース「KEGG」の整備を進めてきた京都大の金久実特任教授(70)(米の科学情報サービス会社の予想)
金久氏はバイオインフォマティクス(生物情報科学)研究の先駆者的な存在で、生体システムの機能の解明に役立ち、医療や創薬など幅広い応用が期待されている。

ゲノム編集技術
ゲノム編集技術の一種「クリスパー・キャス9」は使いやすさや効率の良さから医療の治療法の開発や農水産物の品種改良等、幅広い分野で近年劇的に普及している。
開発者は米国と仏の博士だが、受賞すればこの研究の元になった「クリスパー」という遺伝子配列を発見したのが日本の石野良純九大教授の為、共同受賞となる可能性もある。

製薬関連なら
◯コレステロールの血中濃度を下げる物質「スタチン」を発見し、世界中で推計4000万人
が使っているという動脈硬化の治療薬の開発へとつなげた東京農工大学の遠藤章特別栄誉教授も有力だ。

2.物理学賞
対象分野は「素粒子」「宇宙論」「物性」「量子力学」等で、昨年は「重力波の観測」で米の3氏が受賞しましたが、今年は日本人の受賞が大いに期待されています。
その根拠は?!、以下参考サイトからの
引用です。
「ノーベル物理学賞の受賞分野には法則性があるといわれていて、物性(物質の示す物理的性質)の分野と宇宙・素粒子分野が交互に受賞する傾向があります。近年を振り返ると、2013年は素粒子(ヒッグス粒子)、14年は物性(青色LED)、15年は素粒子(ニュートリノ振動)、16年は物性(トポロジカル相転移)、17年は宇宙(重力波)ときていることから、今年は物性分野からの選出が有力とされています。」

物性分野なら日本人候補者は多数います。

◯理化学研究所の十倉好紀創発物性研究センター長。
磁石の力で電気的な性質を変えたり、電圧を掛けて磁気的な性質を変える出来る「マルチフェロイック物質」を開発。この物質は電気と磁気の性質を併せ持つため、メモリーデバイスへの応用と電子機器の省エネに期待されている。
◯ネオジム磁石を発明した佐川眞人氏
 1982年に史上最強の磁石「ネオジム磁石」を発明。ネオジム磁石は30年以上「最強」の座に君臨し続けていて、「ネオジム磁石がなければ世界中の産業が成り立たたくなる」と言われる。
世界の産業や社会への貢献度は多大です。その開発秘話は日経産業新聞の仕事人秘録のコラムに同氏が掲載されました
その要約ブログここから

◯東工大の細野秀雄教授
IGZO半導体、ハーバーボッシュ法以来のアンモニア合成の新触媒、鉄系超電導物質、透明半導体等幾つもの新物質の発明をされています。毎年候補に上がりますが果たして。

◯香取秀俊 東京大学教授
アインシュタインの一般相対性理論の効果を、約15mの標高差で昨年観測した「光格子時計」の発明。160億年で1秒しかずれないそうだ。因みに現在のセシウム原子時計は3000万年に1秒とのこと。
私的には時計よりもアインシュタインの理論の検証が出来るというのが興味ありますね。

尚蛇足かもしれませんが、
いつも頭の片隅で思っていたことを、つい最近出版された本で見つけたのでここで紹介します。
それは青色LEDの開発ではノーベル賞を受賞したのに、赤色、青色LEDの両開発をも行い更に光通信に多大の貢献のあったとされる元東北大学教授の西澤潤一氏がノーベル賞と無縁のことです。
このことについて日本在住の外国人弁護士(+タレント?)のケント・ギルバート氏が書いた「日本人だけが知らない本当は世界で一番人気の国・日本」(SB新刊)の、第一章の中で記述しています。以下項目だけを列挙します。
世界に誇るの「超ノーベル賞級」の功績の中で
10個のノーベル賞に値する天才、赤色、青色のLEDという偉大なる発明、
「光通信の父にして「ミスター半導体」(一部省略)

本書は現代日本人が知らない産業、社会面をたくさん詳述していますので、是非ご覧になることをお薦めします。

おっと、随分脱線しましたが、本論に戻ります。

3.化学賞
  他の2賞に比べ対象分野は広い。昨年は装置(生体分子を計測するクライオ電子顕微鏡)が選ばれたため、今年は有機化学や材料分野が有望と考えられている。

◯リチウムイオン電池の開発
毎年候補に上がっているので今年は可能性が高い。
ニッケル水素電池や鉛蓄電池というバッテリーが世の中にあったけれど、現在では広く普及し青色LED以上に世界に貢献していると思う。
リチウムイオン電池に関しては、吉野彰 旭化成名誉フェローの名前だけが特によく知られているが、受賞となればとグッドイナフ教授と同教授のもとで正極材を開発した水島公一東芝リサーチコンサルティング シニアフェローの共同受賞となると思う。

◯中部大山本尚教授の不斉合成
山本教授は、有機化合物を合成する際に必要な触媒を研究し、
「キラルルイス酸触媒」と呼ばれる応用範囲の広い触媒を開発した。
必要な有機化合物だけを取り出す「不斉合成」で炭素同士や炭素と窒素の結合を実現するなど、医薬品開発や精密化学工業の発展に大きく貢献した。

◯自己組織化の研究、東大藤田誠教授
金属イオンと有機分子の2種類のパーツを溶液中で混ぜると自発的に組み合わさり、
内部が空洞の立体構造を作る。この技術を使えば調べたい化合物の溶液を含ませると穴に収まる様に整列するため、手間がかかる結晶化をせずに化合物の構造を解析できる。

その他、日本人としては推したい光触媒やCNT等もあるが・・・。

昨年の発表から1年を掛けて選考された結果が明日から発表される。
日本は2000年以降は米国についで2位となっているが、欧州勢との距離は受賞により更に開くか受賞無しで縮まるか?他のアジアの諸国の受賞者はでるか。
いよいよ来週一週間で決着する。

<参考サイト>
1.ノーベル賞、日本人の有力候補と業績まるっと紹介

.ノーベル賞2018特集 日本人の有力候補を総まとめ

スパコン「京」前後とポスト「京」に関する情報

最近の量子コンピューターの話題にやや影を潜めていた感のあったスーパーコンピューター(以下スパコン)ですが、先日理化学研究所がポスト「京」の運用開始を21年からと発表し、またスパコンのニュースがふえて来そうです。

スパコンの計算速度については、1993年から年2回世界の上位500台のランキングTOP500が発表されてきました。
当初はずっと米国クレイ社製が占めていましたが、日本が2002年に「地球シミュレーター」で、また2011年には「」でトップを占めました。

しかし近年は中国の躍進が著しく10年と13から17年まで4年連続して中国がトップを占めました。
世界のスパコンの順位の変遷とスパコンによる大型製品開発の例は以下の図がわかりやすいですね。

理研のサイトより

ただし今年2018年6月25日の発表では、再び米国のIBMの「Summitがトップに返り咲きそれと3位を、また中国は2位と4位を占め、日本は産総研のAI専用スパコン「ABCI」(富士通)が5位になったものの、「京」は16位になっていました。

TOP500にランクインしたスパコン台数については、
中国は速度争いではトップを逃したものの206台とダントツで、米国の124台、3位の日本の36台を大きく上回っています

一方、
単純な計算速度を競うTOP500に対し、消費電力あたりの計算速度を測る「グリーン500」では日本が1位から3位を独占し、更に10位以内に6件が入っており、
速度では負けても小規模パスパコンの省エネの技術面では優位性を保っている状況ではあります。
(因みに1位は、理化学研究所の情報基盤センターに設置されている「Shoubu(菖蒲)system B」。2位は大学共同利用機関法人の高エネルギー加速器研究機構(KEK)に設置されている「Suiren(睡蓮)2」、3位はPEZY Computing社内に設置されている「Sakura(桜)」

最先端のスーパーコンピュータは、科学技術の振興、産業競争力の強化、国民生活の安全・ 安心の確保等に不可欠な「国家基幹技術」であり、上図で見たように各国がその開発競争にしのぎを削っています。
日本としても、諸外国に対して競争力のあるシステムの開発を進める必要があり、ポスト「京」開発のために文科省は「フラッグシップ2020」(世界トップレベルの性能 を有し、幅広い分野をカバーするシステム)としてポスト「京」開発のプロジェクトを立ち上げました。

以下ポスト「京」についての開発計画をご紹介しますが、
その前に
1.まずはスパコンのおさらいです
①「スパコンって何がすごいの
(非常にわかりやすい解説ですが2011年の資料ですので、ランキングは無視してくださいね。)
②これは会社の宣伝サイトではありますが、最新情報も入れた一般受けする項目で非常に分かり易くかかれています。
日本の誇るスーパーコンピュータ「京」!スペックやできることを紹介

2.最初に日本のスパコンが世界トップになったのは、
 2002年の「地球シミュレーターでした。

3.次のトップは
2012年9月末に本格稼働したスーパーコンピュータ「京」です。
当初は10ペタフロップスという1秒間に1京回(1兆の1万倍)の計算が可能な驚くべき性能でした。
①この「京」の全体については
理研計算科学研究センターのサイをご参照
②また開発、製造、据え付けの様子や、新たに開発したネットワークの構造ついては動画サイト「スーパーコンピュータ「京」の開発」から
(しかし2018.6現在はのTOP500では16位となりました)

更に
4.スパコンによる成果については以下のサイトで伺えます
①2011、12年のゴードンベル賞受賞
理研サイトより
HPCIコンソーシアムサイトより

5.スパコンの評価には
①速さを競うTOP500
②省エネ性(エネルギー消費効率の良さ)を競うGreen500
③グラフ処理 における速度を評価するGraph500
等があります。参考サイト

 

それではいよいよ本論のポスト「京」の開発計画に入ります。
計画の概要を最初にざっと要約しておきます。
<事業の目的>
◯我が国が直面する課題に対応するため、2021年の運用開始を目標に、世界最高水準の汎用性のあるスーパーコンピュータの実現を目指す。
<事業の概要>
〇最大で「京」の100倍のアプリケーション 実効性能を目指す。
〇 低消費電力型:30~40MW(因みに「京」は12.7MW)
◯開発費:約1,300億円(内国費1100億円)
<開発の主体>
理化学研究所(理研)と富士通
<目指すシステムの特徴>
下記項目において世界最高水準レベルを備え、総合力で卓抜するレベルの製品
①消費電力性能 ②計算能力 ③ユーザーの利便・使い勝手の良さ ④画期的な成果の創出
<ポスト「京」の開発スケジュール>
2014年:基本設計開始、2015年:詳細設計開始、2018年:製造開始し
2021年:運用開始(の予定ですが・・・)

<重点課題>
以下の5つのジャンル
①健康長寿社会の実現、
②防災・環境問題、
③エネルギー問題、
④産業競争力の強化、
⑤基礎科学の発展
の内、9つの重点課題から構成されています。

理研のサイトより

<期待される成果例>
(文科省)「ポスト「京」」の開発プロジェクト について14頁~18頁に、京以前京での現在ポスト「京」の将来像を画像入で分かりやすく説明されているのが分かり易いかもしれません。
 概要は以上です。

ですが
実際各ポスト「京」プロジェクトの詳細なサイト(文書)を読んで理解するのは大変です。
従って
1.先ず動画理研の全体把握

2.次いで本文のポスト「京」プロジェクト」で追認

3.そして文部科学省の
フラッグシップ2020プロジェクト(ポスト「京」の開発)について」でより理解。

4.その後の開発の進捗状況及び
コスト及び性能の評価に係る報告

5.ポスト「京」への移行に伴う京の運行停止に関する内容及び
最新での最新(H30.1)情報ポスト「京」の開発計画等について
の順で追っていけば全貌がわかるのではと思いますが・・・

最後に
ポスト「京」2021年に稼働予定ですので、それ迄TOP500では中国(天河3号等)と米国スパコンのトップ争いが続くと予想されます。
その間日本のどんな高性能スパコンが出現するのかまた小規模でも省エネ性に優れたスパコンが「Green500」での上位を占め続けるか注目してゆきたいとおもます。
次(11月)のスパコンランキングの発表(年末)がたのしみです。

 

 

 

 

夢の全個体電池(NHKサイエンスZERO)

先日NHK-Eテレ「サイエンスZERO」で全固体電池開発の番組があったので概要を紹介したい。

冒頭EV自動車レースの場面が展開される。
この部分は、現状のバッテリーをEV自動車レースに使うとバッテリーが大きい、充電時間が長い、高速走行では持続時間が短くなる(即ち航続距離が短縮)等の現在のリチウムイオン電池での問題を視聴者にわかりやすくアピールしたもの。
これら現状のリチウムイオン電池の問題は、電解質に可燃性液体を使っているためであるが、これらの問題の解決には、当面の主流として電解質を固体にした全固体電池と考えられ現在世界中で開発競争が繰り広げられてている。

東工大の菅野了次教授は、30年も前からこの固体電解質でのリチウムイオン電池を研究していた。
しかし研究開始から10年たった1991年、液体の電解質を使ったリチウムイオン電池が実用化され現在主流の二次電池としてIT機器等各所に使われている。(より短時間での充電、長時間の使用等の要望はあるが)
その開発者の一人吉野彰氏は毎年ノーベル賞候補に上がるが、今年日本版ノーベル賞ともいえる日本国際賞を受賞した。

そんな中、菅野教授は固体電解質にこだわり続け、最近実用一歩手前(9合目)まで来たという。

その背景には3つのブレイクスルーがあった。

ブレイクスルー1:
2011年、液体電解質を上回る性能の固体電解質の発見。組成はLi10GeP2S12
 その結晶構造は、GeとPとSががっちりとした結晶構造を取っており、一部のLiイオンがまるで液体の様に動いていた。
ただし性能(エネルギー密度、出力密度)はリチウムイオン電池を上回ったが、高価なGeを使っているのが問題。

ブレイクスルー2:
2016年、Geを使わずに更に高性能な電解質を開発。その組成はLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3

Geの代わりにSiを使いほんのわずかの塩素を加えたところ、それまでの性能を上回る固体電解質が得られた。

この電解質を大強度陽子加速器施設「J-PARC」の粉末中性子解析装置を使ってリチウムイオンの分布状態を調べるとGeが有るときよりもより3次元的に広がっている。

また熱的な安定性に関しても、通常の(液体電解質の)リチウムイオン電池は60度での使用とされているが、今回の組成の固体電解質は150度くらいでも十分使える。(そもそも粉末を500度に焼いて作る)
また耐久性である充放電回数も100度での結果では1000回でも全く劣化しない。

ブレイクスルー3:
性能を低下させる界面の問題を解決。
電流が流れやすい電解質は出来たが、作った電池は思ったより電流が流れなかった。
この原因は酸化物(正極のコバルト酸リチウム)の方が硫化物(開発した固体電解質)よりリチウムイオンを引きつける力が強い為、正極に接触している電解質の界面部分のリチウムイオンが正極に引き抜かれリチウムイオンの無い空間が出来、不均一な固体電解質となっているためであった。
そこでNIMSの高田氏は両者間にチタン酸リチウムの薄膜(数ナノメートルのLiTi5O12)を導入することで、通常の3倍(600w/kg)の出力が得られた。

ただし現在その膜の働きの原理はまだわかっていないという。

現在この原理の解明中であり、解明されれば更に高性能な全個体電池の開発につながると考えられている。

尚、
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2018年6月15日付で、全固体リチウムイオン電池を早期実用化するための研究開発プロジェクトの第2期をスタートさせた。
その声明文は以下の通り。
「本プロジェクトでは、自動車・蓄電池・材料メーカー23社および大学・公的研究機関15法人が連携・協調し、全固体リチウムイオン電池のボトルネック課題を解決する要素技術を確立しつつ、プロトタイプセルを用いて新材料の特性や量産プロセス・EV搭載への適合性を評価する技術を開発します。また、日本主導による国際規格化を念頭に置いた安全性・耐久性の試験評価法を開発します。さらに、研究開発と並行して、電動車両が大量普及する将来の社会システムのシナリオ・デザインを検討します。」

<参考サイト>
次世代電池を牽引する、全固体電池開発
Nature Energy 2016年4月)
トヨタと東京工業大が開発する全固体電池の登場はエンジンを場外に送るか    (Motor Fan 2017/08/11)
全固体電池の菅野教授が語る、EVはこう進化する。 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか。
(日経ビジネス 2018年1月17日)

 

最後に
トヨタ自動車は全個体電池を搭載したEVを2022年に発売すると発表している。
番組では、全固体電池の開発が登山に例えるならほぼ9合目に来たと菅野教授は述べておられるが、番組で公開出来ない部分もあるはずなので、トヨタ及び他の会社での車載用電池としての性能、製造プロセス等相当進んでいると思われる。
今後外国勢(特にドイツ、中国)の情報も含め、車載電池の先端状況に注目してゆきたい。

 

 

 

 

量産車に採用される炭素繊維(CFRP)はどちらが勝つ?

炭素繊維強化樹脂(CFRP)はその強度と軽さから、これまでスポーツ用品から一般産業部品、風車のブレード、そして飛行機(ボーイング787等)に用いられてきた。

一方自動車に於いては、その軽さと強度は環境対策、燃費性能向上に於いて魅力的な素材ではあるものの、材料が高価なこと、大型部品の加工が難しい、加工時間が長い等で生産性が低いという問題から、一部の高級車・部品を除き、量産車には採用されるまでには至らなかった。

しかし近年この高価格と生産性の低さを改善するCFRP及び加工法が開発され、量産車に採用される状況になってきた。

炭素繊維強化樹脂CFRPにはこれまで熱硬化性樹脂を使うCFRPに対し、炭素繊維は同じだが熱可塑性(熱くなると柔らかくなる)樹脂を使う熱可塑性CFRP(一般にはCFRTPと略記される場合が多い)が開発された。

熱可塑性樹脂は帝人が開発したが、GMはこの熱可塑性CFRPを使い世界で初めて量産車のピックアップトラックに採用した。
熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂に比べ材料コストが安く成型時間も短いが、これまで大型部品の量産が難しいという課題があった。
それが複雑形状の大型部品を短時間(1分)の成型時間で量産出来るようになったことで量産車に採用された。
帝人とGMが6年3ヶ月の歳月を掛けてこぎつけた技術だ。

一方トヨタ自動車は採用する炭素繊維を、東レではなく三菱ケミカルのCFRPに決めた。
その理由は三菱ケミカルがSMC(シートモールディングコンパウンド)工法をもっていたからだった。(尚東レは2014年トヨタの燃料電池車ミライの水素貯蔵タンクや円筒シャフト等の部品を提供してはいるが大型成型品ではなかった)

SMC工法とは、2~3cmに切断した炭素繊維をエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に分散させたシート(SMC)を使い、同シートを加熱しながらプレス成型して製品をつくる方法。
特徴は複雑な形状の部品が成型出来ること、量産対応が可能なこと。

ただしカット繊維を使っているため、強度的には低くなるため、SMC工法による部品自身で強度が足りない場合は、カットしてない長繊維でのプリプレグや、長繊維で作った織物を片面に充てがい樹脂成型して強度を補強する方法が取られている。

熱硬化性CFRPは部品や高級車ボディーへの一部採用で先行してきたが、
GM・帝人で車体に採用が決まった熱可塑性CFRPが追い上げてくる可能性が高い。

車の軽量化の手段として、これまでの材料である高張力鋼(ハイテン)板やアルミ合金が使われてきたが、軽量化を目的としたその使用量の低減には自ずと限界がある。
一方高張力鋼の引張り強さは、炭素繊維の長繊維の併用で十分補強でき、アルミ合金部品には素材単価はかなわないとしても、多くの部品からなるものであれば、CFRPの一体成型によるコストダウンが可能になる。

軽量化素材の比較

上記の理由で今後CFRPの大衆車への使用が増大して行くと思われるが、
GM/帝人の熱可塑性CFRP対トヨタ/三菱ケミカルの熱硬化性CFRPの行方が注目される。
更に、飛行機向けでは圧倒的地位を築いている東レが出遅れていた量産車へのCFRPの取り組み・巻き返しが注目される。

 


これまで車用部品、大型パネルの部材として熱可塑性CFRPが先行開発採用されてきたが、今後は可塑性CFRPが主流になっていくのではないかと一部で考えられている。

確かに加工性(生産性)、性能(強度等)、材料コスト(樹脂)、リサイクル性等が熱硬化性CFRPより優れていればそうなるのは必然だが、しかし私にはどうしても気になる点がある。
それは.異常高温環境下での形態安定性保持・強度不足の懸念についてだ。
熱硬化性CFRPは問題ないが、熱可塑性CFRPは成形品でも高温になると樹脂が柔らかくなる。このため常温で強度が維持されていても、火災等何らかの異常高温環境になった場合に強度が不足し問題になることはないのか。

<参考サイト>
2017年07月18日
炭素繊維とアルミ、量販車への採用を後押しする成形・加工の進化
三菱ケミカルは17年に入り、シート・モールド・コンパウンド(SMC)と呼ぶ生産性を向上したCFRPがトヨタの「プリウスPHV」の骨格部材に採用された。

2018年05月29日
プリウスにも採用、炭素繊維が鉄素材の牙城を崩し始めた理由

2018/6/14
世界初、量産車に採用 アルミを超える新炭素繊 

石とプラスチックから出来た紙、ライメックス(LIMEX)

最近ライメックスという「石から作られる紙」が注目されている。

その特徴は
1.
従来の紙の製造時に必要とされる原料の木材と水が不要である
(因みに紙1トン作るのに木材20本、水100トンが必要だが、代替紙1トンのためには
 石灰0.6~0.8トン、樹脂(PP)0.2~0.4トンとされる。)
2.原料の石(石灰石)は日本で100%自給出来る資源であり、世界的にも埋蔵量は
非常に多く枯渇の心配はほぼない。(結果値段も安い)
3.薄い紙としてだけでなく、厚物、板物としてプラスチックの代替としても使える。
4.紙に比べ耐水性や強度が高いので、浴室等水回りや屋外での使用もできる
5.製造時、廃材や汚水の発生が少なく、特に世界的に逼迫してきている水を大量に
使わなくて良いエコロジー素材である。
とされている。

この素材の誕生とその後の華々しい展開
・2011年に山崎敦義氏によって設立されたベンチャー企業TBMが開発。
(元は台湾のストーンペーパーだが、日本の高度な印刷品質要求に合うものとして新規に開発)
ネーミングは、石灰石(LIMESTONE)のLEMEと未知の可能性を秘めたXを合わせてLIMEXとした)
・その後のブレイン人材と優秀実行部隊の獲得による戦力アップ
・2013年経済産業省のイノベーション拠点立地推進事業に採択
数々の受賞(受賞歴下記)による知名度アップ
・大企業との連携
2016年11月、凸版印刷株式会社と共同開発の基本合意
2017年3月、日揮株式会社、サウジアラビア国家産業クラスター開発計画庁(NICDP)とサウジアラビアでのLIMEXの開発及び製造活動に向けて基本合意
2017年8月NEDOより平成29年度「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」に採択

・2018年 従来の石灰石の代わりに植物から作った生分解性プラスチックである
 ポリ乳酸とを組み合わせたバイオプラスチック新素材の開発。
・生産量の拡大計画
2020年に白石市の工場の年産能力を6千トンから5倍の約3万トンに高める予定。

<所感>
・原料が石灰とPPから考えると、なぜもっと昔に世に出なかったのかとは思う。
しかし基本的に特許が取れるということは誰もやっていなかったのだろうか。
昔から大理石(石灰石)とアクリル樹脂MMAとの混合製品はあった。
(粉体混合ではなく、また厚板としての利用だが)
・LIMEXの発想・製品の元が台湾の「ストーンペーパー」だった(社長談他)のなら、
素材・技術がシンプルそうなので「日本発」というのは一寸気が引ける。
(「KAIZEN」が妥当?)。
・原料が自給出来る日本にとっても有用だが、水も木も少ない中東にとっては
ポスト石油としての期待もさぞ大きいだろうとおもわれる。今後のプラント建設に期待。
また開発途上国にとってもまずは採用しやすい自国の産業となりやすいだろう。
・現在の紙の一部はLIMEXに置き換わるだろうが、木からの紙も良い点は多いので、
値段を基準に棲み分けて行くのでは。
・木(パルプ)を原料とする現行の紙のリサイクルはよく分かるが、このLIMEXのリサイクル      はちょっと難しいと考えられる。
なぜなら樹脂がPPの製品だけでも単品で集めるの(分別することが)難しいのに、
今後多種の樹脂が使われてくることは必然。
環境性(エコロジー)を謳い、生分解性樹脂を多用されるならそもそもリサイクルそのものがなくなる。
・「アップサイクル」が出来る製品でもあった。
アップサイクルとは、リサイクルの上位概念で元の性能以上のもの(材質・製品等)に
生まれ変わらせるという意味。
今後いろいろな分野でこの言葉が好んで使われるようになりそうだ。

LIMEXが今後、素材としての発展と用途してどんな分野にどれだけ浸透(侵食)してゆくか、注目してゆきたい。

 

<参考サイト>
LIMEXとは
動画:地球を救え!石灰石からつくる革命的新素材「LIMEX
LIMEX(ライメックス)が秘める地球環境問題解決への可能性
数々の受賞
◯テレビ番組カンブリア宮殿出演

◯参考
ストーンペーパー

<参考情報>
最近のプラスチック製ストローの環境汚染の問題に絡み、2018年10月4日の日経産業新聞にわかり易いライメックスの記事がでている。
注目は、TBMが伊藤忠他と組んで20年度までに米国に工場を設けるとしていること。

ペロブスカイト型次世代太陽電池の実用化近づく

世界中で日本発のペロブスカイト型という新型太陽電池の開発競争があり、実用化が近づいています。

太陽電池は地球に降り注ぐ膨大なエネルギーの太陽光から電気を発生させる物質の総称であり、たくさんの種類の太陽電池が研究されています。(更に詳細はNEDO太陽光発電

しかし現在は産業用・民生用としてはシリコン系が圧倒的に使われています。

シリコン系も単結晶型から多結晶型、アモルファル型へと進化し、モジュールの改良とも合わせ現在はそれら単独またはその組み合わせで使われています。

これらシリコン系の特徴としては、発電効率は20%程度とまだ低く、重い、硬い、割れやすいといった欠点や、製造時真空装置を使うなど生産が難しく、製造コストが高いといった問題があります。

変換効率だけならシリコン型を超えるものはいろいろあり、量子ドット型太陽電池に至っては
理論値は70%近くに達するとされています。

しかしシリコン系の最大の特徴は耐久性で約20年以とされ、これが現在の太陽電池市場での圧倒的地位を確率している所以です。

しかし最近このシリコン系に取って代わるとされる技術が日本の研究者によって生み出されました。
ご存知の方も多いと思いますが、2009年9月桐蔭横浜大学の宮坂力教授らが発表した
ペロブスカイト型太陽電池です。ノーベル賞候補にも選定されているほどです。

ペロブスカイト構造については後述するとして、この型の太陽電池の最大の長所は、発電基板の製造が超簡単にでき、使い勝手が非常に良くなるとされるものです。
例えば製造は基板となる薄いプラスチック板に液体の原料を塗って乾かすだけで済むつまり印刷方式で大量生産ができる様になるということです。

大量生産が可能となるため低コストとなり、また製品は薄く、軽いため、現行のシリコン基盤の様に平面パネル/架台での設置の必要はなく、曲面や壁などにも貼って使える様になるというものです。

このペロブスカイト型太陽電池が発表されてから、世界中の研究者が競って研究を始めており、開発当初は3.9%だったものが10%となり現在は20%くらいまで急激に向上してきています。現在の最高値は外国勢の22.7%です。(ただし試作面積の大きさが小さい場合は高めに出ている場合があり、一定の面積での性能評価必要があることに注意を要する。)
このペロブスカイト太陽電池の太陽光理論値は30%とされていましたが、2017.4パデュー大の60%超の可能性があるとの報告もあります。

実際大量生産(大面積)でも変換効率20%台が確保できれば、変換効率だけについて言えばほぼ十とも思われますが、問題は耐久性と有害な鉛を含有していることです。

耐久性の方は、日本で確認された100℃で2600時間の性能を維持したとか2,3年程度とか報告されていますが、シリコン製にはまだ遠く及びません。

鉛の問題については鉛を使わない(鉛フリー)での太陽電池の開発が進められています。

現在世界で、変換効率アップと耐久性アップの研究が精力的に研究されており、将来的には、効率はシリコン型太陽電池を上回り、耐久性は近いものが開発されるものと期待されています。

したがって当面はペロブスカイト型太陽電池がその特徴(軽い・薄い・曲がる)を活かしてシリコン型太陽電池市場を少しづつ侵食して行きながら発展して行くと考えられます。

 

以下簡単な説明と、参考サイトをご紹介します。

ペロブスカイトとは
もともと地球下部マントルの主要構成鉱物(MgSiO3)の結晶構造であり、模式的にはABX3という組成で、八面体構造の中心に金属元素がありその廻りを立法体構造が取り囲む形をしている。

人工物ではチタン酸バリウム(BaTiO3)があり、宮坂教授が開発した組成は下記のような(CH3NH3)PbI3と言う元素構成です。

ペロブスカイト太陽電池の各研究機関による成果の経緯についての詳細は最後に添付したリストをご参照下さい。
尚、茨城県つくば市にある物質・材料研究所(NIMS)の
4月22日の一般開放で展示されていたパネル写真をご参考までに添付します。

尚一般的な太陽光発電に関しての記述はここでは省略し、主題のペロブスカイト太陽電池に関しては最近の主な記事(サイト)を年代順位ご紹介しますので、適宜ご参照下さい。

今話題の「ペロブスカイト」って何?
2015年10月22日
ペロブスカイト太陽電池で変換効率18.2%を達成、年内に20%目指す。印刷で量産できる安価な次世代太陽電池へ一歩
新聞より薄い「曲がる」太陽電池、インクジェット印刷で実現 (1/2)
2016年10月11日 h
紙のようにロール印刷、ペロブスカイト太陽電池
2017年03月22日
鉛フリーで実現、期待の「ペロブスカイト太陽電池」
20170713
ノーベル賞候補で俄然注目、「ペロブスカイト太陽電池」開発前線
2017年09月21日
ペロブスカイト太陽電池の新材料を発見、スパコン「京」を活用
20171017
日本発の太陽電池ペロブスカイト、年内にも実用化 柔軟で透明、窓や衣類に用途広げる
2018.2.11

期待のペロブスカイト太陽電池、耐久性10倍のブレークスルー
20180319

ぺロブスカイト太陽電池の実用化へ前進、寿命・製造を改良する新材料2018年04月10日

世界の注目を集める日本発の太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」とは2018423

 

 

 

 

 

 

 

 

ホンダジェットHA-420が高評価で、納入数首位

当ブログは通常科学・技術関連の1テーマについて私見を含めてご紹介していますが、
今回は特に日本発の新技術による「夢が羽ばたく」嬉しい話をご紹介します。

最近
国産初の70~90人乗り小型旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)の開発遅れに関するニュース記事をよく見かけます。
MRJは日本の小型旅客機の悲願として2008年3月に事業化が決定され、量産初号機の納入を当初2013年後半としスタートし、受注も解約オプションも含め400機以上ありました。
しかし当初の設計変更から当初の機体そのものの設計変更から、機材の配置替え等の変更等の対応でこれまで5度の納入延期となり、型式認証が取得出来ず、受注件数も増やせず苦しい状況になっています。
現在量産初号機納入予定は7年遅れの2020年半ばになっています。
今は早期の型式証明の取得に向け試験機の台数を増やすなどの対応がとられていますが、この間に競合会社(エンブラエルやボンバルディア)と大手との提携の動きが出て、競合環境が変わってきています。

一方、
ホンダがジェット機の研究を初めてから30年を掛け遂に開発した超小型ビジネスジェット機HA-420は、既存のジェット機に無い各種新技術の採用により、走行特性や燃費の良さ等の人気で、昨年2017年の超小型ジェット部門での納入機数ではセスナ社のM21を抜き世界一になる等非常に好調な状態です。

その主な特徴を列挙すると、
・米GEとの共同開発の新エンジンHF-120の採用。
・機体材料として炭素繊維(ノーメックスも)複合材を採用による軽量化と強度アップ(他社はアルミ合金)
・機体廻りの空気の流れの層流(NLF)化と特に翼の形状を改良したSHM-1翼の開発
・エンジン(2基)の主翼上面配置により広い室内(操縦席、客室、荷物室、化粧室)空間の確保と室内騒音の低減
・他社を上回る巡航速度、航続距離、飛行高度の達成
等々。

更にその技術革新性に対し今年2108年5月2日には米国航空宇宙学会(AIAA)より航空業界のノーベル賞と言われる「AIAAファンデーションアワード・フォー・エクセレンス」を受賞した。

販売対象顧客は富裕層、企業経営者からジェットタクシー会社、小型航空会社等へも広がっており、
販売地域もこれまでの米国中心から欧州、中南米他、中国等世界的に広がっている。

課題は、生産台数の増大(現在の月4,5台生産台数を7,8台に上げ100機/年)と思われるが、その他の懸念されるニュースは現在のところ見当たらない。

ホンダジェットに関連する各種メディアから抜粋した情報の概略を表にしてみましたが、
更に詳しくは、写真・動画、特集記事を集めた最後の参考サイトの一覧から適宜ご確認下さい。

機種名 ホンダジェットHA-420
航空事業会社 ホンダエアクラフトカンパニー(「HACI」(Honda Aircraft Company)
社長:藤野道格氏(東大航空工学科)
工 場 米ノースカロライナ州グリーンズボロ(本社工場)
機体区分 超小型機、ビジネスジェッット
価 格 約5億4千万円
機体の特徴 <体の大きさ>
長さ:12.99m 、翼幅:12.12m、高さ:4.54m
<搭乗人員>7人(含パイロット)(標準乗客5又は4人)
優れた点 ・燃費性能の良さ
・高い就航高度
・長い航続距離
革新技術の採用とその結果 自然層流翼型でありながら、十分な厚み(強度と燃料確保)があり、操縦特性に優れたSHM-1を開発。
エンジンを主翼上面に配置により広い客室と荷物室の確保とエンジンから伝わる騒音と振動の減少に成功。
更にエンジン位置の最適化により空気抵抗を低減し
高速飛行と低燃費を実現(他社より13~17%低い)
最新装置の採用による快適な操縦性の確保
飛行性能 最大巡航速度:420kt(時速778km)(他社339-404kt)航続距離:2185km(4名搭乗時) (1kt(ノット)=1852m/分)
最大巡航高度:13100m(43000ft)(他社35000-41000ft)
搭載エンジン HF120(推力950kg)(ホンダ開発のHF118を基に米GEと共同開発した改良型)、2基、
大きさ:直径54cm,長さ112cm
機体製造会社が自社でエンジン開発は世界では唯一(通常は専門の会社から調達する)
コックピット 広い空間と快適な操縦装置環境、次世代ディスプレイ(Garmin3000)設置
使用材質 一体成型複合材製胴体
胴体:炭素繊維(東邦レーヨン製)を使用。
機首と尾部:炭素繊維/ノ-メックスハニカム複合材
(競合他社はアルミ合金使用)
競合他社(機種) ・米国セスナ社のサイテーション(CJ1、CJ1+、M2)
・ブラジル、エンブラエル社(Phenom100/100E)
認証取得 2015年FAA(米連邦航空局)の認証取得済み
生産台数 現在4機/月今後6~7機
納入実績 2017年は43機(セスナ社のM2の39機を抜いて首位)
受注残 現在までに100機超
対象顧客 富裕層、ジェットタクシー会社、企業経営者
2017年納入実績(%) ホンダジェット(32),米セスナサイテーションM2(29)、シラスSF50(16)エンブラエルフェノム100(13)、米セスナムスタング(5)その他(5)
ホンダのジェット機事業のあゆみ ・1962年 本田宗一郎氏が軽飛行機の開発を宣言
・1986年 機体やエンジンの研究開始
・1997年「ホンダジェット計画」が正式スタート
・2001年 米国に研究拠点を設立
・2006年 航空機市場への参入を表明
・2006年「ホンダエアクラフト社」設立(藤野社長)
・2007年 米国で生産工場の建設を開始
・2012年 量産1号機の生産を開始
・2014年 量産1号機が初飛行
・2015年 米当局(FAA)から型式証明取得。1号機引き渡し
・2016年 欧州EASAから型式証明取得、欧州、中南米での受注開始 ・2018年5月 米国航空宇宙学会(AIAA)より、最も名誉ある「プレミアワード」の最高位と位置付けられる「AIAAファンデーションアワード・フォー・エクセレンス」を受賞
・2018年 5月: スイスのジュネーブで開催されたビジネス航空ショーで、「HondaJet」の最新型としてアップグレードされた「HondaJet Elite(エリート)」を初公開

 

下記参考サイトには、比較的最近の記事や動画を集めて、ほぼ時系列に並べてみました。
題名から内容を類推して適当に選んでご覧下さい。
尚特にお薦めは◎で示しておきます。

<参考サイト>
ホンダ、航空エンジンで「シェア3割」の野望(記事)2014/10/21
日本初公開、独創的かつ革新的な「HondaJet」の特徴と歴史を解説
(細部写真も多数掲載)(記事)2015/4/24
HondaJet〜機内&コックピットをご案内(藤野道格社長の案内)(動画)2015/06/10 に公開

次の3連載サイトは特にお薦め。技術内容を解り易く解説。
ホンダジェットHA-420の現状(その1)—はじめに(記事)2016/06/12
ホンダジェットHA-420の現状(その2)—採用した革新的技術(記事)2016/06/12
ホンダジェットHA-420の現状(その3)—GE Honda HF120エンジン(記事)/06/12

空飛ぶクルマ「ホンダジェット」世界一の裏側(快挙を支えた「技術屋の王国」の秘密)(記事)2017年09月01日
小型ジェット機市場で世界一のシェア ホンダジェットの成功の秘密(記事)’17年11月7日
ホンダジェットに世界第1級の評価!その秘密をテストパイロットが明かす未来志向の先進の操作性(動画+説明文字)2018/02/24 に公開
【必見】ホンダジェットの秘密が満載!デモンストレーション飛行に操縦席や客室などがたっぷり見られます(英語動画)2018/03/30 に公開
ホンダジェット製造会社が全米航空宇宙学会の賞を受賞(記事)2018/4/6
ホンダジェットを操縦してみた!コクピット詳細と管制塔とのやり取り((乗った気分)英語、動画)2018/04/20 に公開

今後
ホンダジェットに関しては 今後新情報が出れば追加していく予定です。

一方
MRJに関しては、ホンダジェットよりはるかに多くの情報が発信されていますが、
こちらに付いてもまた適当な時期に纏めてご紹介します。
嬉しいニュースを待ちましょう。
“ホンダジェットHA-420が高評価で、納入数首位” の続きを読む

ハーバー・ボッシュ法に代わる新アンモニア合成法

アンモニアはハーバー・ボッシュ法により現在世界で年間約1.7億トンが生産されその8割が肥料用(つまり食料増産)に向けられ、その他食品や医薬品原料として使用されている。

バーバー・ボッシュ法は、100年前にドイツで開発され、空気中の窒素と別途調達された水素を鉄系触媒下、高温(400~600℃)・高圧(100~200気圧)で作る方法であるが、現在まで製法は殆ど変わっていない。

このハーバー・ボッシュ法は大量生産には向いているが、大量のエネルギーを必要とし、また製造設備も莫大な費用が掛かるのが問題であった。

そこで世界中の化学者が新しい方法を探索するなかで、次の2つの技術の組み合わせで小規模生産型の新たな技術が注目されている。

1.新触媒
HB法では鉄系触媒を使用しているが高収率のため上記したように高温高圧の条件が必要であった。
これに対し、東工大の細野教授らは、セメント成分でもあるエレクトライドという酸化カルシウム、アルミナなどの化合物をベースにルテニウムの粒子をつけた触媒により、50気圧以下、300~350℃でアンモニアが合成できる触媒を開発した。(前回ブログご参照)

2.アンモニア分離ゼオライト膜
三菱ケミカルはアンモニアの合成反応で、反応静止物であるアンモニアだけを効率よく通し、未反応物質である水素や窒素をとおさない膜(ゼオライト膜)を開発した。
ただ、ゼオライト膜は本質的に高温・高圧に弱く、現状のハーバー・ボッシュ法には適用出来ない。
そこで東工大の触媒に着目し両者を組み合わせ小型で高い反応収率が得られる技術を開発した。
この技術によると、現状のハーバー・ボッシュ法の収率20~30%を大幅に上回る70%以上の収率が得られた。

この技術を使えば、現在の一箇所での集中大量生産方式から、ドラム缶程度の大きさでも年間数千トンのアンモニが生産出来るという。分散型生産になれば、大型設備や運搬が不要になる可能性を秘めている。

小型設備で容易にアンモニアが生産出来るようになれば、輸送コストが掛からない消費地(肥料として農業地区、工業原料として工場)での生産スタイルになることが考えられる。


アンモニア合成を促進する触媒については、細野教授が当初開発したエレクトライド(Ru・C12A7))以後も各種新触媒が開発されている。
例としては、バリウムを少量加えたカルシウムアミド(Ba-Ca(NH2)2)にルテニウムのナノ粒子を固定化した触媒、
東工大フロンティア材料研究所の原亨和教授と元素戦略センターの北野政明准教授の研究グループらによる新たなエレクトライドRu/Ca2N、

また科学技術振興機構(JST)、東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)らは、貴金属ではないランタンとコバルト、シリコンの金属間化合物(LaCoSi)を開発等がある。

更には東京大学、九州大学、科学技術振興機構(JST)によるニトロゲナーゼと呼ばれる酵素をモデルとした常温・常圧という温和な条件で窒素ガスをアンモニアへと変換する触媒の開発も進んでいる。

現在すでに上記の様にハーバー・ボッシュ法に取って代わる能力ある触媒の開発競争状態となってはいるが、今後更に新しい触媒も開発されると予想される。

最終的には、総合的に1つの触媒による方式となるか、各触媒に適した生産方式で棲み分けになるのか興味深いところではある。

私的には、マメ科植物の根に共生して窒素を固定する根粒菌のバイオミメティクスによる触媒を用いる生産方式を期待している。(昔のレンゲ畑はこの根粒菌が目的だったのです)

 

<参考サイト>
低温で高効率にアンモニアを合成できる触媒を開発、現行の工業用触媒に比べて3倍以上
ゼオライト膜
東工大など、貴金属を使わない金属間化合物アンモニア合成触媒を開発(LaCoSi)
世界最高の活性を示すアンモニア合成触媒の開発に成功(ニトロゲナーゼ模倣)
(~モリブデン錯体を触媒とした常温・常圧での窒素固定反応~)
アンモニア合成を通して人類を支えた研究者たち

リチウムイオン電池を大幅に超えるリチウム空気電池、ソフトバンクも参入

現在繰り返し使えるバッテリー(二次電池)はリチウムイオン電池が主流を占めているが、
電解質に有機性の液体を使用していることから発火や爆発等の安全性の問題があり、
さらにエコカーへの車載用電池としては蓄電容量(走行距離)や、耐久性(繰り返し充放電回数)が不十分とされ、更に高性能な電池が期待されている。

この期待に応じられるバッテリーとして、現在電解質に無機系個体電解質を使用する全個体電池の開発が、2022年頃の実用化を目指してトヨタ自動車を先頭に各社で進められている。これらの件についてはこれまでのブログで述べてきた。
(最新情報としては、非車載用の小型電池ではTDKが今年6月から生産予定とのこと)

一方、この全固体リチウムイオン電池は正極に希少資源のコバルトを使うという点や容量密度(走行距離)がまだ不十分のため、更にこれらの問題点を解決し、課題に対応し得る可能性のある電池として理論エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の5-10倍のリチウム-空気電池がある。(図の金属ー空気電池の領域)


このリチウム-空気電池は負極にリチウム金属を用い、正極に空気中の酸素を利用するもので、「究極の二次電池」とも言われ、現在世界的に研究開発が進められている。

物質・材料研究機構(NIMS)で開発されたリチウム空気二次電池の原理模式図


正極の空気(酸素)極、セパレータ―、負極のリチウム金属からなるシンプルな構造となっている。
この電池はコバルト等の希少資源を使う必要がなく、負極物質は空気を原料とするもので現行のリチウムイオン電池に比べて大幅な軽量化とコストダウンが期待されている。

リチウム空気電池の基本反応
放電(電気の取り出し)では、負極のリチウム金属からリチウムが溶けだし、リチウムがプラスイオンとなり、その時放出される電子が電流として外部回路に流れ仕事をする。
リチウムイオン(Li)の方はセパレータ―を通り、正極(多孔性カーボン)に達し空気中の酸素(O)と反応して過酸化リチウム(Li)となり正極の多孔性カーボン上に析出する。
充電は、外部からの電気エネルギーにより放電の逆つまり正極に蓄積した過酸化リチウムをリチウムイオンと酸素に分解し、陰極にリチウム金属にして戻す反応。

期待されるこのリチウム空気電池には以下の課題があった。
1)理論大容量の実現、
2)低いエネルギー効率と、短寿命

これらの課題に対して、NIMSは下の取り組みを行い大幅に改善した。
1)大容量の実現
正極のカーボンに不織布状のCNT(カーボンナノチューブ)シートの採用により達成。
これはCNT不織布の大きな表面積と柔軟な構造の寄与により、酸素の通りがよく、放電反応による過酸化リチウムが表面に析出してもCNTが変形し析出反応が制限されなくなった為と考えられている。また充電により元の形状に戻るため繰り返し回数の増加に寄与している。下図がその様子を示している。

2)低いエネルギー効率と短寿命
低いエネルギー効率の原因は、過酸化リチウムの分解が起こりにくいため充電電圧(過酸化リチウムの分解電圧)が放電電圧より高くなることによる。
また短寿命の原因は、充電時過酸化リチウムが分解されリチウム金属として負極に析出する際に、デンドライト状(樹枝状)になり、リチウム金属を劣化させると共に短絡を生じる。

この問題に対し、2017年7月31日、物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは同電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する新たな電解液を開発したと発表した。

新しく開発された電解液は、臭化リチウム(Li)と硝酸リチウム(LNO)を含む混合電解これによって、充電電圧が3.5Vに、エネルギー効率の値77%まで大幅に向上した。
また、寿命低下の一因とされていたリチウム金属の樹枝状物質(デンドライト)の析出も防止することで、従来20回以下であった充放電サイクルを50回以上(現在はもっと大きな数字となっていると思われる)まで向上させた。

下の画像で概況を知り、正確には参考サイト2をご参照ください。


 

 

 

 

 

 

今年2018年4月11日ソフトバンク物質・材料研究機構(NIMS)は、今後のIoT時代に向けての各種デバイスやあらゆる産業に必要となる高性能電池の開発を目指し、先端技術開発センターを設置リチウム空気電池を共同で開発に着手すると発表した。(参考サイト3,4

これまでも数々の投資を行って成功させてきたソフトバンクが参入することで、リチウム空気電池の開発が一気に進む可能性もある。

一方トヨタ自動車は、車載用として全個体リチウムイオン電池を2020初頭に開発するとされていたが、リチウム空気電池も開発しており、その圧倒的容量の大きさ(走行距離)から今後の進展次第では車載用電池の実現が意外に早く来るかもしれない。

全個体電池、他の金属も含めてリチウム空気電池の今後の進展に注目していきたい。

 

<参考サイト>
1.(CNT不織布の正極)
  容量はリチウムイオン電池の15倍、超高容量の「空気電池」を開発 
2.(新電解液)
  リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する電解液を開発
3.(SBNIMS)①
  究極の“リチウム空気電池”、ソフトバンクとNIMSが共同開発へ
4.(SBNIMS)②
   リチウム空気電池! ソフトバンクと物質・材料研究機構NIMSが共同開発に着手