最近のアンモニア研究について

アンモニア(NH3)が注目されている。
アンモニアは生活環境の中では嫌われ者だが、人間が生活して行く上では無くてはならないものなのだ。
日常生活中ではアンモニアの重要性は分かりにくいが窒素供与物質として、これまで大量の肥料として世界中の農業で食料の増産を助け、人類を食糧危機から救ってきた。
また様々な食品、医薬品や化成品の原料として利用される等極めて重要な物質なのだ。
しかし近年は別の新しい応用が注目されている

1.火力発電所の燃料として
化石燃料を燃やして発電する火力発電では、大量の温暖化ガスである二酸化炭素CO2を排出する。
この化石燃料の変わりにアンモニアを使えば炭酸ガスは出さない。だが窒素酸化物(NOx)がでる。
さらに発電所では排出濃度5PPM以下の規制があるのでこれをクリアすることが課題となっている。
2.燃料電池の燃料として
燃料電池と言えばその燃料は水素(気体)だが、その製造方は現在いろいろな方法がある。
また水素は取扱い(運搬や貯蔵)が難しい(高額の設備が必要)といった問題がある。
そこで燃料としてプロパンと同様の貯蔵・運搬等の取扱いが容易なアンモニアから水素を取り出して燃料電池とする方法が注目されている。

3.新規触媒の開発によるアンモニア新合成法

アンモニアの新しい製法が現在非常に注目されている。
それは、アンモニアは以前のブログにも書いたが100年前に開発されたハーバー・ボッシュ法(後記参照)が現在なお使われているのだ。これまでにも各種の方法が開発されてきたが、採用された方法はない。
しかしながら、ハーバー・ボッシュ法は、鉄系触媒の下、高温、高圧(約400℃、200気圧)という非常にエネルギーを使う方法なので大型のプラントが必要だった。(其のために貯蔵、運搬等の設備も必要となる。)
従ってより小スケールでも生産できる省エネルギー合成法が求められていた。

ところが2015年東工大の細野教授らが開発した新触媒が、求められている新規の合成法となることが分かったのだ。
この触媒を使用すればハーバー・ボッシュ法より大幅な省エネルギー(350℃、常圧(1気圧))での合成が可能なのである

細野教授の今回の触媒発見までの詳細な経緯及び触媒組成、メカニズム等は後記文献に譲るが、
概略を記すと次のようである。

・名古屋工業大学の助手の時学生たちが作っているセメントが白い原料にも拘らず着色していることを不思議に思ったこと。
・その後そのセメント物質C12A7(12CaO・7Al2O3)が面白い性質を持つため徹底的に研究した。
・其の物質がカゴ構造であることを解明し、更に中に酸素イオンがトラップされていることを発見した。
・その酸素イオンをチタン金属と反応させ、TiO2となった後にカゴ内に電子がある、いわゆる電子化物(エレクトライド)(C12A7/e)に変えた。
・これがかつて有名になったセメント材料が超電導体になった話だ。
・細野教授はもともとアンモニア合成に興味をもっていたのでアンモニア合成に使えないかと考え、ルテニウム金属の微粒子をそのエレクトライドのカゴの上に載せた(分子的に)物が、これまでのアンモニア合成触媒の10倍位上の性能を持っていることを確認した。(ルテニウムRuは既に触媒として実績がある金属、周期律表で鉄の下)

(東工大資料より)

・触媒のメカニズムとしては、まずルテニウム微粒子が表面に窒素分子と水素分子を吸着し、水素分子を切断して水素原子を内部のカゴに取り込む。次に窒素分子の三重結合を切断し、カゴから出てきた水素原子イオン(マイナス)と反応しアンモニアとなり、カゴには電子が残りエレクトライドとなる。つまり触媒に戻る。
エレクライドのカゴが水素を可逆的に出し入れすることで、触媒の寿命を縮めるルテニウムの水素被毒を防いでいる。

新触媒による新規アンモニア合成法は、省エネで少量生産に適しているので、必要とする場所で、必要な量だけを生産するオンサイト生産に適している。
今後アンモニアを原料とする各種工場内で、この方法での生産設備が稼働する様になると考えられる。

<ハーバー・ボッシュ法>
 鉄鉱石などを触媒に大気から窒素を取り出 し、水素と反応させてアンモニアを合成する 方法は、発明したフリッツ・ハーバー(1868- 1934)とカール・ボッシュ(1874-1940)の 2人のドイツ人科学者の名をとって「ハー バー・ボッシュ法」と呼ばれる。
20世紀初頭 に生まれたこの合成法は高温・高圧下でメ タンから単離した水素大気中の窒素から、 鉄を主体とした触媒を用いて合成し、液体 のアンモニアを得ることができる。
現在でも 工業的なアンモニア合成法の主流である

上記の参考としたサイトを紹介します。
・細野教授出演NHK「サイエンスZERO」、
動画

<更に詳しく知りたい人への推奨サイト>
・推奨サイト1.(今回の技術を非常に分かり易く説明した動画.)
アンモニア合成 一世紀ぶりの新発明

推奨サイト2
「100年不変のアンモニア合成法を 大きく変えるか? 新触媒の開発」

・尚ウィキペディアはハーバー・ボッシュ法での鉄系触媒の内容が興味深い。

 

 

尚、次のアンモニア関連記事の予定
アンモニア新製法の実用化他