全樹脂電池が量産移行へ

現在のリチウムイオン電池の欠点である発火・燃焼・エネルギー密度の問題を解決すると期待される全固体電池と平行して急遽?登場した全樹脂電池に付いて、前回の記事で当時の情報を纏めて紹介したが、いよいよ大量生産につながるニュースが3月初旬に出た。
そこで今回はおさらいを含めてその状況をご紹介したい。

1.発表内容
 三洋化成工業は4日、電池技術開発のノウハウを持つ子会社APB(東京・千代田)が国内7から第三者割当増資で約80億円を調達すると発表した。APBは福井県越前市で用地と建物を取得し、第1工場を設けた。第1工場の敷地面積は2万3733m2、延床面積は8628m2。2021年に操業を開始し、全樹脂電池の量産技術を早期に確立することを目指す。次世代電池の開発競争で先行する全固体電池などを追い、5~10年後をめどに数千億円規模の事業に育てる狙いだ。
APBは代表取締役である堀江英明氏が、三洋化成工業と共同で開発したバイポーラ積層型のリチウムイオン電池である全樹脂電池(All Polymer Battery)の製造及び販売を行うスタートアップ企業。
出資した7社とはJFEケミカル、JXTGイノベーションパートナーズ、大林組、慶應イノベーション・イニシアティブ1号投資事業有限責任組合、帝人、長瀬産業、横河電機
JFEケミカル:負極材料のハードカーボンの提供と電池開発。
JXTG、長瀬産業:様々な材料の提供。
大林組:ビルなどでの定置用電池の設置。
帝人:ナノカーボンの提供

2.全樹脂電池とは
全樹脂電池はAPBと三洋化成工業が共同開発したバイポーラ積層型リチウムイオン電池で、集電体も含めた電池骨格を全て樹脂材料で構成している。
全樹脂電池には界面活性技術を持つ三洋化成が新開発した樹脂を用いる。活物質に樹脂被覆を施し、樹脂集電体に塗布することで電極を形成している。
特徴としては、従来のリチウムイオン電池と同様の出力を確保しつつ、異常時の急激な発熱や温度上昇を抑制できる点がある。全樹脂電池は釘を打ったりドリルで穴を開けたりしても発火しない
また、独自の製造プロセスにより工程を短縮することで従来のリチウムイオン電池よりも大幅な製造コスト低減リードタイム短縮が図れる。
部品点数が少ないことに加えて、樹脂で構成することで電極を厚膜化し易いためセルを大型化し易く、高いエネルギー密度を実現している。
形状の自由度も高く、「リチウムイオン電池の理想構造」(APB)だとしている。

以下参考サイトからの引用図で説明します。

従来の電極(左)とバイポーラ電極(右)での電流の流れの比較
(従来は電流は電極につながるリード線を通って流れるのに対しパイポーラ型は面全体を通して流れる。)

電池の製造プロセスの比較
(ロールツーロール方式なので工程が少なく生産性がアップし、低コスト化につながる)

電解質の伝導度の比較(リチウムイオンの伝導度(輸率)が常温でも数倍高い)

単セルの構造とモジュールとした状態
(積層するだけで、結線や収納箱が不要なので省スペースとなり、単位体積あたりのエネルギー密度が高くなる)

全樹脂電池モジュール(左)とその内部構造(右)

上記全樹脂電池に関して、形状や生産プロセスはこれまでの情報で判るが、製品(試作品)の静置型電池としての諸性能(特に耐久性)が十分なのかどうかが今一不明なので若干の懸念を持たざるを得ない。今後全樹脂電池に関しては電池性能を主体に注目して行きたい。

 

ところで
先行する競合製品である全固体電池の開発・生産状況については
トヨタ自動車が22年からEV(電気自動車)に搭載するとされているが・・・。
一方小型全固体電池村田製作所TDKは20年中にも量産化する。
また京セラは電解液を電極に練り込んで粘土状にする独自技術を使った新型電池を20年にも本格量産するという。
しかし従来型のリチウムイオン電池もまだまだ改良(不燃化、高性能化)がなされており、更に非リチウム金属を使用する電池も開発・進化中であり、今後の2次電池の技術ニュースに目が離せない。

 

<全樹脂電池関連参考サイト>
日経2020/3/2
三洋化成、福井で全樹脂電池を量産 工場新設を正式発表

R Times 2020年3月4日
APB株式会社 次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行うAPB、約80億円の資金調達を実施

日経2020/3/4
全樹脂電池量産へ7社とタッグ 三洋化成、80億円調達

Motor Fan 2020/03/04
「全樹脂電池」ってなんだ? 次世代型リチウムイオン電池開発でAPBが80億円を調達

大林組 2020年 03月 04日
次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行うAPB社へ出資します

<最新ニュース>
2020/07/20
APB:全樹脂電池を川崎重工の自律型無人潜水機に搭載して実証試験を開始