全個体電池の新製法出現。全個体リチウムイオン電池の実用化が早まるか?

現行のリチウムイオン電池の性能を上回る固体電解質を用いた全個体リチウムイオン電池の開発が世界中で競われている。

我が国については、大枠以下の状況であろう。

1.車載用全個体リチウムイオン電池(東工大/トヨタグループ)
東工大の菅野教授が1911年に開発したLPGS系から進化した固体電解質を用いたリチウムイオン電池がEV用途としてトヨタ自動車を先頭に22年の実用化を目指して開発されている。(関連ブログ有り)

2.超小型~小型の全個体電池
既にTDKをはじめとした電装部品メーカーで商品化された(セラチャージ等)。

3.全樹脂リチウムイオン電池
元日産でEVの電池開発に携わった堀江氏が慶応大に移り、ゲルを用いた全樹脂リチウムイイオン電池を開発し、高吸水性ポリマ―メーカーである三洋化成と日本触媒とで共同開発が進んでいる。(前回ブログ)

このような状況の中
ベルギーの研究機関imecが開発しパナソニックも参加する新しい製造法で、安価で大容量の全個体電池が出現し、大型電池の実用化の前倒しが期待されている。

以下日経エレクトロニクス2019.8月号、(日経産業新聞9.27)より抜粋し概要をご紹介する。
その特徴は固体ナノコンポジット電解質(SCE)を開発したことである。

先ず電極の構成として
・正極の形成。これは既存の液体電解質のLiBと同じ。
今は正極にリン酸鉄リチウム(LiFePO)(LFPと表記)を使用。
・負極には金属リチウムLiを使用。
これらは今までと同じだが

imecが開発した電池の最大の特徴はその個体電解質でありその製造プロセスが注目されるものである。
即ち
・液状の電解質を電極に染み込ませた後に乾燥して固化する。
・この固体電解質の主成分はSiO2でありふれた酸化物材料であるが、比表面積が   1400m2/g(活性炭レベル)と極めて高い多孔質になっておりその内壁にイオン液体のLi塩が結合している。
この製造法は、ゲル作成の古い技術と新しい素材であるイオン液体を組み合わせたところに特徴がある。

電池製造の流れ(考サイト1より)

TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)イオン液体によるゲル電解質の形成

・まず、TEOSと呼ぶSi系材料をイオン液体中に分散させた後、水を加えて(加水分解して)ゲル化する。
水を除去後、さらに二酸化炭素(CO2)を用いた超臨界乾燥を施す。
すると「エアロゲル」と呼ばれる極めて軽いスポンジ状の固体材料になる。
この方法は80年前からある技術だが、イオン液体を混ぜる点が新規なところ。
これが、上述の電解質が液体から固体になるプロセス。
この構造により、電解質は固体化後も弾力があり、充放電に伴う電極中の活物質の膨張収縮を吸収できるとする。

この電池の特徴は
1.製造
・コバルト等の高価な資源を使わず、従来のLiイオン電池をつくる設備を流用出来るため
低コストで製造が出来る。
大型(A4サイズ)も製造可能。

2.性能
・体積エネルギー密度425ワット時/リットル(以下Wh/Lとする)、この値は現在のLiイオン電池とほぼ同じだが、2024年には1000Wh/Lまで高められるとする。

その根拠としては
・現在用いている正極材料は電位窓約3.5Vのリン酸鉄リチウム(LFP)だが、同5.5Vの正極活物質を使えば約1000Wh/Lも可能となる。(現在のLiBは800wh/Lが限度とされている)
・今回の電解質が高温に強い(320℃まで利用可能)ため、現在の車載用LiBでは必須の冷却システムが不要となり現状でも現在の約2倍の体積エネルギー密度となる。
・充電時間も現在は2時間程掛るが将来大幅に短縮(20分で充電)出来るとしている。
・imecが用いるこの固体電解質のイオン電導率は現在約10mS/cmで東工大/トヨタ自動が開発した電解質と同等の性能とされる。同社はさらにこれを10倍の100mS/cmに引き上げる事を目標としている。 

現在の課題は急速充電の実現。
一般に全個体電池は急速充電に優れた物が多いが、このimecの電池の急速充電特性は液体電解質のLiBと同等かやや低い。速くすると急速に容量が低下する。
この原因として2つが推測されている。
その1.固体電解質がイオン液体とのハイブリッドであること。
その2.Li負極を用いるためデンドライト(樹状突起)ができこれが充放電の律速となっていること。
しかしimecはこの対策として、電極の構造をジャングルジムの様な規則的な空間を備えた
ナノメッシュ電極とすることで制御出来るとしている。 

今後現行リチウムイオン電池の頑張り(さらなる性能向上)と新固体電池の商品化の進展に注目して行きたい。

<参考サイト>
1.imecがA4型5Ahの全固体電池、高伝導率酸化物系電解質で

2.全固体電池の実用化、目前に TDKと日立造船、今年から本格量産 「安全で大容量化」容易に2019.3.25 

3.全固体電池の菅野教授が語る、EVはこう進化する(東工大菅野教授)
次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか(2018年1月17日)

4.全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクトの第2期が始動
(2018年6月15日)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

5.イオン液体【ウィキペディア】

6.電気伝導度の基礎

 

 

 

2018年ノーベル賞まとめ

2018年のノーベル賞まとめ
NHKノーベル賞の解説サイト「まるわかりノーベル賞2018」を出しています。
まずはここを覗いてみてください。(低学年用、文系用?)
医学・生理学賞
物理学賞
化学賞

このサイトで不十分な人は以下へどうぞ。

 .医学生理学賞
◯本庶佑・京都大特別教授(76)
本庶博士は免疫細胞の働きを抑えるブレーキとなるPD-1を発見。
このブレーキを取り除くことでがん細胞を攻撃する新しいタイプの「がん免疫療法」を実現し、がん治療薬「オプジーボの開発」に道を開いた。

◯ジェームズ・アリソン(James P. Allison)博士(70)
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(米国)
同じころ、免疫のブレーキにかかわる別の分子「CTLA―4」の研究を進め、
この作用を利用したがん治療薬「ヤーボイ」の開発に道を開いた。

これまでのがん治療法には①手術による切除、②放射線照射、③抗がん剤による化学療法の3つの方法があったが、これまでとは全くアプローチの異なる④免疫療法という、第4の方法が加わった。
これが両氏の発見によるもので、これにより、がん治療の選択肢が広がり、既存の治療法で効果がなかった患者を救う道も開けた。
参照サイト:朝日新聞

2.物理学賞
物理学賞は、光を使って物体を操作する技術を開発し、ウイルスのような小さな物をつまむ「光ピンセット」やレーザーによる視力開発手術につながった米国、フランス、カナダの3氏に。

授賞理由は「レーザー物理学」の分野で、これまでになかった手法を1980年代に切り開き、産業や医学分野への応用を広げたことが評価された。

アーサー・アシュキン博士(96歳)(米国)(史上最高齢の受賞者)
アシュキン氏はレーザーを微小な物に当てると、物を捕らえる力が発生することに気付き、

1987年この仕組みを利用して「光ピンセット」を開発し、生きた細菌を傷つけることなくつかむことに成功した。「光ピンセット」は、いまでは生命科学の研究に広く使われている。

ジェラール・ムル博士(74)(フランス)、ドナ・ストリックランド博士(59)(カナダ)
両氏は1980年代、パルスの幅をいったん広げるなどしてから強度を高める「チャープ・パルス増幅法(CPA)」と呼ばれる独創的な増幅法を開発。それまでできなかった超高強度の超短パルスレーザーをつくることに成功した。この成果によってレーザーを使った目の近視矯正手術(レーシック手術)などが可能になった。


ストリックランド氏は、物理学賞では1903年のマリー・キュリー(放射線の研究)、63年のマリア・ゲッパートメイヤー(原子核の殻構造の発見)以来、55年ぶり3人目の女性の受賞者
参照サイト:朝日新聞 

3.化学賞

化学賞は、生物の進化の仕組みをまねてタンパク質を作るなどして医薬品やバイオ燃料の製造技術を開発した米英の3氏に。
◯フランシス・アーノルド(62)氏、(米国)
自然界で起きている進化を、加速度的に再現する手法を開発。たんぱく質の一種である酵素の機能を、目的に応じて高めることに成功した。作られた酵素は、バイオ燃料や医薬品などの生産に活用されている。
◯ジョージ・スミス(77)氏(米国)
大腸菌などに感染するウイルスの仲間「ファージ」に遺伝子を組み込んで、それぞれ異なるたんぱく質を作る「ファージディスプレー」という手法を開発。自然淘汰(とうた)のように、その中から狙った特徴を持つたんぱく質だけを絞り込めるようにした
◯グレゴリー・ウィンター(67)氏(英国)
生物の進化をまねて、役に立つ酵素や抗体といったたんぱく質を効率よく作る道を開いた。
同氏はこの手法で治療用の抗体を作り、リウマチなど自己免疫によって生じる病気や、がんの画期的な薬につなげた。
参照サイト:朝日新聞

今年の注目は、今回受賞した技術がどこまで応用され、また発展するか、
そして2019年、どんな科学的な新発見と新技術の開発が行われるか期待したい。

今回の事前予想では医学・生理学賞が当たりましたが、またこの中から2019年のノーベル賞受賞者が出るかもしれません。いや是非出てほしいものです。

 

世界のEV化は一気にはならない

近年排ガス規制に基づくエンジン車を規制し電動車の普及を目指した規制が世界の趨勢なっている。
現在明らかになっている世界の規制は以下の通り。
英国・フランス・・・2040年までにガソリン・ディーゼル車の国内販売禁止。
ノルウエー・・・・・2025年までにガソリン・ディーセル車の国内販売禁止。
米国・・・・・・・・カリフォルニア州など10州が独自にZEV規制を導入。
ZEV(zero emission vehicle)とは排出ガスを一切出さない自動車のこと.
ZEV規制とは、米国カリフォルニア州大気資源局(CARB:California Air          Resources Board)が施行している制度で、州内で一定台数以上
自動車を販売するメーカーに対し、ZEVを一定比率(14% : 2017年現在)以上販売する コとを義務付ける制度です。(HVは含まれていない)
中国・・・・・・・・2019年に新エネルギー規制(NEV:New Energy Vehicle)が導入され る。この規制は自動車メーカーは中国で年間生産・輸入量に応じて一定比のNEVを製造  販売しなくてはならないというもの。
ただし対象はEV、PHV、FCVで日本勢が得意とするHVは含まれていない。
欧州連合(EU)・・・CAFÉ(コーポト・アベレッジ・フュエール・エコノミー)とよばれる方法で、個別モデルでは無くメーカーの平均値で規制するのが特徴。2021年から規制される。(しかし2021年でこの欧州規制をクリア出来るのは中国企業傘下のボルボとトヨタ、仏ルノー・日産、印タタ傘下のJLRの4陣営のみと言われている。)

こうした各種規制の台頭により、特に世界最大の市場である中国の規制によりこれまでEVを最優先にしてこなかったメーカーも対応に追われている。
特に中国のNEV規制や米国ZEV規制ではHVが除外されているため、HVでは圧倒的に強かったトヨタもマツダと組みEVの開発に本格的に乗り出した。
しかも両社はEV用バッテリーを現在の有機液体型ではなく、発火の心配が無く、長寿命、省スペースが期待できる全個体電池の開発を2020年中ごろまでに行うとしている。

以上の様な規制の動向からEVの普及が一気に進む様な状況ではあったが、まだ課題も沢山ありそうはいかない事になってきているようだ。
例えば
・資源調達の問題や電池生産性が高くないことから電池の調達が間に合わない(米ステラ)
・電池性能がまだ不十分で航続距離が一般的にまだ足りない。
・充電時間に時間が掛かる。
・まだまだ電池の価格が高く車の価格に対するコストウェイトが高い。
・また重量も重く燃費を下げる原因でもある。本体を軽量化するには材料(アルミ等)高額となる。
・高速道路や住宅地などの人々の移動に関わる場所により多くの充電施設が少ない。
・ガソリン価格が安くなっているので革新性だけではゼロエミッション車は広がらない。
・エコカーとみなされなかったHVが色々姿・技術を変えて台頭してEV化を阻んでいる。
・規制に対応出来ないメーカーがある。
・これから車が増得るであろう新興国、発展途上国はまだガソリン車が主体
等。

上記の内技術的課題をクリアするための方策として各種の対応策が出されている。
その1.マイルドHV
欧州規制CAFÉをクリアするための対策

マイルドHVというのは、通常のHV(ストロングHV)と違い小さなモーター、電池系で、発進時の始動に補助的に使われる。利点は電圧が低い(48V)(ストロングHVは200V)ので安全機能にたいするコストが低い。燃費の改善は少ない(約1割)だが21年の欧州規制をクリアするためには、EVが間に合わない状況で注目されるようになった。ストロングHVでトヨタの先行を許した欧州勢大手が部品メーカーも巻き込んで規格を共通化しコストを削減する戦略で、カリフォルニアのZEV規制や中国のNEV規制とは異なった方式の規制だ。
従って欧州規制(平均燃費改善)にたいしてストロングHVは大きな優位性を持っている。
その2.シリーズHV
エンジンで発電しモーターだけで駆動する独自のハイブリッド技術「eパワー」は「シリーズ・ハイブリッド」
と呼ばれ、EVの様な加速性とガソリン車並の航続距離の両立で人気を呼びつつある。
その3.レンジエクステンダー
マツダは夢のエンジンと呼ばれたロータリーエンジンは一定の回転数で発電し続ける条件下であれば、小型高出力という特徴を活かせることで、航続距離を伸ばすレンジエクステンダーとして19年に復活させる見込みだ。
現在の米・中のCO2排ガス規制では前述の通り、HVはエコカーに含まれていない。
しかしEVが一気に広がるとも思われない各種状況のため、上述した方式による電動車が当面は並行して普及して行くと考えられている。

<参考サイトリスト>
ZEV参考サイト1(zero emission vehicle)
同2:
NEV参考サイト1.
 同2.
CAFÉ参考サイト
ハイブリッドカーの豆知識
マイルドHV参考サイト
シリーズHV参考サイト
レンジエクステンダー参考サイト

(本ブログは日経産業新聞18.3.8~のNEXT CARに挑む、攻防・電動化シリーズ①~④他を参照した)

今回のブログの主旨は、エコカーとして世界中の車が一気にEVになってしまうのではないかという現状だが、実はEV化にはいろいろ課題があって一気には増えずまだしばらくは時間が掛かりそうだということです。
そうすると現在やや未来先取的な感じのあるFCVとも歩調があってくるのでは無いかと言うことです。

車に関しては、全体的な規制動向、技術動向、メーカーの機種・生産動向、その他色々ありなかなか全体把握が大変ですね。

今後車載用電池に関する新しいニュースが出たらまた紹介したいと思います。

ご訪問ありがとうございました。

リチウムイオン電池はまだまだ進化する

EV(電気自動車)用バッテリーとしては現在リチウムイオン電池が使われているがこの電池はまだ性能的に不十分でまた液体の有機物を電解質としているため、液漏れ、燃焼等の危険性を含んでいる。この欠点を改良する方法として各社で固体の電解質を用いた全固体蓄電池の開発が進んでいる。
トヨタの予定としては2020年代前半に実用電池を開発し、2030年頃に量産しEVへの搭載が始まるとしている。(これについては前回のブロクご参照)しかしながら固体電池にも急速充電の問題(内部に結晶ができてショートする)や組立時の問題(電解質に硫黄が含まれているため空気に触れるとガスが発生する)の問題があり量産の見通しは立っていないため、一気に現行リチウムイオン電池に取って代わることにはならないと考えられている。

その間、従来のリチウムイオン電池もいろいろ性能向上が図られており、固体電池が完成しても簡単には置き換わらないと予想される。

(図は最後のサイト内より)

現在行われているリチウムイオン電池の改良の一部は以下の通り。

1.有機液体電解質の改良
有機電解液は主にリチウム塩(リチウムイオン)とこれを溶かす溶媒からなる。
一般に非常に多くのリチウム塩と溶媒があるが、以下に一例を示す。
・リチウム塩:LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)
・溶媒:EC(炭酸エチレン)、EMC(炭酸エチルメチル)など

1)横浜国立大の渡辺教授はこれまでに較べてリチウムイオン濃度を3倍にした電解質を開発した。
溶媒には「グライム*」と呼ぶ有機溶媒を使用した。この溶媒はリチウムイオンを囲む性質があり、これを混ぜる割合を工夫することでグライムのほぼ全ての分子がリチウムイオンに 結合する条件を見つけた。これによりこれまでリチウムイオンに結合していなかった自 由な分子が充放電の繰り返しで電子などと反応し電解液や電極の劣化する原因にな っていた。(*1,2‐ジメトキシエタン、ジメチルセロソルブ

2) 東京大学の山田敦夫教授らは2014年、濃厚電解質を使うことにより電池の充電時間を3分の1にすることに成功した。また2107年にはリン酸トリメチルと呼ぶ燃えにくい有機溶媒を活用し、火を近づけても引火せず、200℃まで加熱すると火を消す蒸気が発生するという消火剤としても働く濃厚電解質を開発した。

2.電極の改良
1)正極材の改良 
正極材には、①電圧が高い、②充放電効率が高い、③電極密度が高いことなどの物性が求されるが、これらの性能をバランスよく満たす素材として、これまで民生用途では、コバルト酸リチウム(LiCoO2: LCO)が主に採用されていた。
しかし、コバルト材料は資源的な制約が多く、価格面も不安定かつ高騰するリ スクが高いため、代替材料の検討が進められている。

車載 リチウムイオンバッテリー用正極材としては、コバルト酸リチウム(LCO)以外にも3 元系(LiNiMnCoO2:NMC)、マンガン系(LiMn2O4 :LMO)、ニッケル系(LiNiCoAIO2:NCA)、鉄系(LiFePO4:LFP)など複数の材料系が実用化されていると共に、現在も改善・改良が進められている。
また、この他にも、(有機)硫黄系、固溶体系、ケイ酸塩系が次世代材料候補として注目されている。
このような状況の中で、光学ガラス大手のオハラは独自に開発したLICGCと呼ぶガラスの材料を正極に混ぜて使い試作した電池では、出力や容量の向上、充電時間の短縮、零下20℃での充電での容量の増大を確認した。
また岡山大の寺西助教はリチウムイオンを引きつける性質を持つ金属酸化物に注目し、チタンやバリウムを含む物質を粒子にして正極の表面に付け試作した電池では通情の5倍の速さで充電することができた。

以上の様に、現行液体電解質リチウムイオン電池の改良で、充電が速く、容量が大きい等電池性能が高まればまだまだ次世代電池に取って変わられることはなさそうだが、はたしてどうか。

2)負極材の改良
現在リチウムイオン電池の負極材は黒鉛が主に用いられている。
さらに高容量の負極材として理論的にはシリコン系合金が黒鉛に較べて10倍以上の容量(リチウムイオンを保持することが出来る)を持つと見込まれているため、各社が研究開発されている。
しかし充放電時の体積変化が400%にもなり、電極の構造破壊を引き起こしやすく、充放電サイクル寿命が短くなるという欠点があった。
電池メーカーは各社この問題の克服に苦心しているらしい。

最近のニュースでは
1)大阪のベンチャー企業アタッカート(参考1)が、リン酸やケイ酸の化合物を使うことで剥がれを防止する接着剤を開発し、充放電の繰り返しでも剥がれをなくすことに成功し、電極単体の性能は炭素材料の約10倍に向上し、電池としての容量が1.5倍になったとしている。
今後他社も技術開発が進めば、負極はシリコン系が主流となりそうだ
参考1)ケイ酸系無機バインダーを用いたSi負極の電極特性

2)東芝は負極の材料にチタンとニオブの酸化物を使い微細な結晶が揃うように合成したところリチウムイオンが入り込み易くなり容量が高まった。其の結果従来の5倍の電流で充電が可能となり、6分間で容量の90%まで充電出来るようになった。従来は80%の充電に30分間かかっていた。
また試作電池による充放電の繰り返し実験では5000回でも性能低下はなかった。
マイナス10℃でも急速充電が出来た。炭素の負極に多くの電流で充電すると析出して性能が落ちたり、劣化が早まったりしていたがチタン・ニオブ酸化物はこうした問題が置きないという。今回320km走行の見通しが得られたが、今後6分間の充電で400kmの走行出来る電池の開発を目指すとしている。

今後車載用をメインとして現行リチウムイオンの性能向上と全固体リチウム電池及びポストリチウムイオン電池との開発競争から目が離せない。

<参考サイト>
リチウムイオン2次電池用電極材料

リチウムイオン電池における吉野彰博士の業績

 

 

 

 

 

2017年ノーベル賞結果(科学系3賞概要)

今年の自然科学系ノーベル賞の発表が終わった。
残念ながら日本人の4年連続受賞はならなかった。
しかし改めて考えて見れば世界中の研究者の数多くの業績の中から物理、化学、医学生理学の中から1件だけ選ばれることは大変なことと改めて思う。

さて今年2017年の受賞者とその業績について簡単にまとめておきたい。
以下3賞の概要。

1.医学生理学賞
受賞者
:米国3人

ジェフリー・ホール氏(米ブランダイス大名誉教授、72歳)、
マイケル・ロスバッシュ氏(同大、73歳)、
マイケル・ヤング氏(米ロックフェラー大教授、68歳)

受賞業績
約1日周期の体内時計の仕組みを明らかにした

内 容:
人間の身体は,24時間のリズムで変化しています。活動や睡眠、血圧や心拍                数、血液成分、ぼるもん分泌の変化等こうした周期のことを,サーカディアンリズム             (概日リズム)と呼びます。一般には「体内時計」と言ったりもします。
この概日リズムの研究はまず1930年代植物について、次に1970年代にカリフォルニア大の2人の博士によってショウジョウバエに突然変異を起こさせ、睡眠時間の異常から染色体の一定領域にリズミにかんする遺伝子があることを突き止めました。
今回の受賞者によりこの遺伝子を最終的に特定しピリオド」と名付けられた。
ピリオドによって作られるタンパク質は夜間に増え昼間分解され
生体内でタンパク質の量を調製することで体内時計の仕組みが出来ている。
「ピリオド」は人間でも見つかり、この仕組が多細胞生物に共通に存在し、
睡眠や体温、血圧の調整、ホルモンの分泌にも影響していることが分かってきた。

業績役割
ホール氏とロスバッシュ氏のグループとヤング氏のグループが1984年に独立に関与遺伝子を発見しピリオド遺伝子と命名。
さらにヤング氏らは1995年,概日リズムを生み出すもう1つの遺伝子,tim(timeless)遺伝子を発見。

参考サイト:新聞各誌と以下のサイトを参照した。
1.日経サイエンス
コメント:分子生物学者で青山学院大の福岡伸一教授は、「高等生物で遺伝子と行動との関係を最初に解明し、行動の様な複雑な生命現象も遺伝子で説明出来る筋道を付けた」と話す。

2.物理学賞
受賞者
:米国3人

レイナー・ワイス氏(マサチューセッツ工科大名誉教授、85歳)
バリー・バリッシュ(カリフォルニア工科大名誉教授、81歳)
キップ・ソーン氏(カリフォルニア大名誉教授、77歳)

受賞業績:レーザー干渉計重力波の観測
レーザー干渉計重力波観測装置LIGOを使い、アインシュタイン博士が100年前に予言した時空の歪み「重力波」の観測に世界で初めて成功した。

受賞者の役割:
ワイス名誉教授はレーザーと反射鏡を用いた干渉計という手法を使って重力波を観法を提案。
ーン名誉教授は重力波の理論の確率に貢献。
バリッシュ氏は計画を大規模な国際研究プロジェクトに発展させた。

3人はLIGOの建設と運営で中心的な役割を果たし、世界に置ける重力波研究の基礎を確率した。

賞  金:1億2000万円をワイス氏が半分、残りを2人で分け合う。

日本人の貢献
今回の受賞には日本人が大いに貢献している。
川村静児氏:東大宇宙研究所教授、
1989年に渡米しレイナー・ワイズ氏の研究チームに加わり、
新たなノイズ源を次々に見つけ出し、僅か半年でLIGOの感度を1000倍に高めた。
これでプロジェクトに予算が付くきっかけを作った。現在はKAGURAで中心的な役割。
小野 潤氏:LIGOのライバルチームであるドイツのGEOの元研究員
大学院時代の92年ドイツに渡り鏡の配置や位置を工夫して、レーザー光から重力波の微弱な信号を効率よく取り出す手法を考案した。この方法はLLIGOやViragoやKAGURAにも採用されている。
新井宏二氏:米カリフォルニア工科大上席研究員
国立天文台(東京都)から8年前に米カリフォルニア工科大に移り重力波の検出に直接携わった。

世界の重力波観測装置:
LIGO(ライゴ):(米国ワシントン州とルイジアナ州で2台地上、長さ4km)
Virgo(バーゴ):(イタリア、地上、長さ3km)
KAGURA(かぐら):(日本、岐阜県神岡鉱山地下、長さ3km、2019年春より本格観測が
可能になる)
LIGO India(インド);計画中
GEO600HF(独・英):計画中

重力波とは

そもそも重力波とは
ブラックホール等の非常に重い天体が運動する際に、時間や空間が伸び縮みする現象。アインシュタインが1916年に一般相対性理論で存在を予言した。しかし信号が非常に微弱でこれまで観測出来ていなかった。

重力波研究・観測の歴史ここから
LIGOはレーザー光で、重力波による空間の伸び縮みを超高精度で測定するもので、本格観測を始めた直後の2015年9月、約13億光年先にあるブラックホール2つからなる連星が衝突・合体した際に生じた重力波を捉えた。
(勝手な思いだが、この「幸運」は、2002年ニュートリノの観測でノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏がカミオカンデの運転を再開した翌月、誰も予期していなかった大マゼラン星雲の超新星爆発でのニュートリノを捉えたのと似ている?)

尚 最新ニュース(2017.10.2)では、
米国のLIGOと欧州のVIRGOのチームは8月14日共同で重力波を検出したと発表した。VIRGOでは初めて、LIGOでは4度目。更に3台で同時観することでLIGO2台だけのときよりも重力波の発生領域を10分の1に絞り込めたそうだ。

2016年2月11日のニュース
アメリカ東部時間の午前10時30分(日本時間12日午前0時30分)に、LIGOグループとVIRGOグループが行った重力波の観測結果についての記者会見を受けた佐藤勝彦自然科学研究機構長のコメント

重力波研究の今後
重力波観測が軌道に載った今後は、世界の研究者は日本のKAGURAの動向に注目しているそうだ。
なぜならLIGOやViro以前は日本のTAMA300という装置が世界をリードしていた実績があり、LIGOで米国に感度や性能で追い越されたものの、新装置KAGURAで追い越しを狙っているから。KAGURAは検出器の振動を極力抑えるため地下環境とで極低温での測定という2つの大きな長所がある。
KAGURAの完成がもう数年早かったら・・・という思いは日本の研究者にはあると思う。
が、これから新発見が続々でてくることを期待します。

3.化学賞
受賞者
:スイス、米国、英国の3氏。

・ジャック・デュボッシェ氏(スイスローザンヌ大名誉教授)
・ヨアヒム・フランク氏(米コロンビア大教授)
・リチャード・ヘンダーソン氏(英MRC分子生物研究所)

受賞業績:極低温でのタンパク質など生体分子を観察する「クライオ(極低温)電子顕微鏡の開発
選考委員会は「生化学を新しい時代に導いた」と高く評価。

クライオ電子顕微鏡は蛋白質などの生体組織を液体窒素で瞬間冷凍させ観察することで生体に近い状態のまま高解像度で観察できる。これによりウィルスなどタンパク質の構造を原子レベルで解析することが簡単になった。これらの成果は生命科学と創薬の研究開発に大きく貢献した。

研究開発の経緯
従来ある電子顕微鏡は真空にする必要があり、電子を照射することにより水分が蒸発し、構造が破壊されてしまい生きたままの状態で見ることが出来なかった。
ヘンダーソン氏はグルコースでタンパク質を被うことで電子顕微鏡の真空空間でタンパク質が乾燥しないことを発見し微弱な電子ビームを使うこと等の工夫で電子顕微鏡による生体を観察することに成功。
フランク氏は其の技術を更に向上させ、2次元画像から鮮明な3次元画像を再現する方法などを考案、
デュボシェ氏は液体窒素で-160℃に冷やしたエタン中で生体試料を急速冷凍することで生体分子の立体画像を正確、鮮明に観察出来る手法を考案した。

<参考サイト>
参考サイト1
参考サイト2
参考サイト3

賞金:等分

今年の科学系は意図されていたのかどうかは不明だが、単品系ではなく、自然・人間の本質に迫る内容で統一されているようだがはたして・・・。

参考サイト3の中の言葉から抜粋。
「今年のノーベル賞は物理学が宇宙の時空構造、化学が生命の物質構造、医学生理学が意識の時間認知構造の本質に肉薄する素晴らしい業績をラインナップした、実に品位あるセレクションになっていると思います。」

同感。

 

セルロースナノファイバーCNFの各社開発概況

今年2017年は植物由来の新素材セルロースナノファイバー(CNF)が本格的に実用化に入る年と言われている。
これまでも当ブログでポスト炭素繊維と言われているCNFに関する記事(最後に記載)を書いてきたが、CNFは炭素繊維と違い原料が植物なので環境負荷が低く資源的な問題もない。CNFに取り組んでいる会社は製紙会社以外にもあるが、その状況について概略を紹介する。

<製紙会社>
1.日本製紙
石巻工場で国内最大のプラント(年産500トン)を生産する体制を整えた。
年内には静岡県で樹脂の強化剤、島根県でも食品・化粧品の添加剤として生産を始めた。
2.中越パルプ工業
鹿児島県川内工場で100トンプラントを立ち上げる。
4月に丸紅と用途開発と販売で提携した。
3.王子ホールディングス
透明度の高いシートを作り、立体的に整形する技術を開発。
ガラスや樹脂等の既存の素材の代替需要を狙い、医療用途の開発を進めている。
4.大王製紙
従来設備で製造するCNFは通常水を含んだゲル状のため、石油由来の樹脂とは混ざりにくかったため、今年中に粉末にする設備を愛媛県の三島工場に導入する。
年100トンの生産能力の内数十トンの粉末化に対応可能。
大王製紙は主に産業用途での実用化に主眼を置く。パルプ繊維とCNFと混ぜ合わせたシート素材で自動車部品や建材用を狙う。
20年には三島工場で大規模な量産プラントを新設する計画。

5.北越紀州製紙
特殊な薬品でスポンジ状にしたCNF発泡体を開発。断熱材の開発
6.特殊東海製紙
リチウムイオン電池のセパレーターで実用化を狙う。
7.天間特殊製紙
家具等の表面に使う「化粧板原紙」や金属に傷が付くのを防ぐ保護紙を製造している。 紙力増強剤としてCNFを数%配合することにより紙の表面強度を20%程高く出来るガ同じ強度なら薄くでき製造コストを下げることに繋がる。

<化学メーカー>
1.第一工業製薬
化学処理で作るCNFの実証プラントを新潟県に持つ。
15年CNFをインクの増粘剤に使ったボールペンを三菱鉛筆と実用化した。
2.旭化成
CNFを使った不織布製品の研究を進めている。不織布はそのまま使用したり、樹脂を含浸させて強化樹脂とする。原料はパルプの他同社製品ベンベルグ原料である綿花由来の再生セルロース繊維もある。
3.三菱ケミカル
京都大と不織布製品の共同研究を進めている。この程両者が持つCNF関連の特許を外部へライセンス販売を始めた。
最大の課題はコストだ。現在1kg当たり数千円から1万円する製造コストを下げないとポスト炭素繊維としての普及はおぼつかない。
今後は製造技術開発と用途を増やして量産効果によるコスト低減を測る必要がある。
経産省は30年までに1kg当たり500円程度への削減を目指す。
(上記記事は日経産業新聞他を参照した)

世界の森林国はこぞってCNFを研究しており、国内及び外国の研究の進展、新用途開発、量産、低コスト化等に着目して行きたい。

<これまでのCNF関連ブログ>
植物が原料の新素材セルロースナノファイバー(CNF
竹で新素材

 

 

 

 

 

水銀ランプ代替LEDの開発状況

青色LEDで日本人3名がノーベル賞を受賞したことはまだ記憶に新しい。

この青によるLEDで既に開発されていた赤、緑のLEDと合わせ、完全な色の再現(いわゆる光の3原色)が出来る様になり、ディスプレイ商品の色表現が飛躍的に拡大した。
また白色光も三原色を使わずとも、青色LEDと黄色の蛍光塗料の組み合わせで作れるようになった。

光の波長は長い順に、赤→緑→青となるが、当然其の青より短い波長を発光するLEDも順に開発され、更に現在はもっと波長の短い領域のLEDの開発に移っている。

一般に紫外(線)は人間が直接浴びる影響は悪い場合が多いがが、工業的には重要であり、各社・機関が競ってその開発を行っている。

紫外線は波長 400–200 nm の近紫外線(near UV)、と波長 200–10 nm の遠紫外線と分けられる。
近紫外光は次の様にA、B、Cの3つの領域に区分されている。
UVA(320~400nm)、UVB(280~320nm)、UVC(200~280nm)
半導体発光素子では、200nm~350nmを深紫外といっている。

用途的には
・VAは樹脂硬化・接着や速乾印刷・塗装、コーティング、3Dプリンターなどに、
・UVBは、アトピー治療などの皮膚治療、農作物の病害防止、
・UVCは殺菌・浄水などに用いられる。

特に近年殺菌能力を有するUVC-LEDが注目されている。
というのはこれまで工業用水や民生用機器での殺菌には水銀ランプが使われていたが、
国際条約で毒性のある水銀を使用した機器の製造・輸出・輸入が2020年以製造降禁止となったため水銀ランプに替わる光源としてUVC-LEDが一躍注目されるようになった。

UVC-LEDの波長は265nmや275nmや280nmが多く採用されている。

これまでにUVC-LEDは開発はされていたが、殺菌光源として十分な出力を有するLEDが開発されていなかったが、半導体素子の基板素材や電極等の改良による発光量の増大、内部での吸収の低減、反射の増大等の改良により従来の出力レベルを大きく上回る成果が出て来ている。

理化学研究所:水銀ランプに迫る殺菌用の高効率深紫外LEDを実現
情報通信研究機構:150mW超(発光波長265nm)世界最高出力の深紫外LEDの開発に成功

民間会社も日亜化学工業、パナソニック、旭化成、トクヤマ(最近スタンレー電気に技術譲渡した)なども数多くあるが、特に日機装は深紫外LEDの研究・製品開発に関する情報をが発信されていたと思う。

 

今後も深紫外LEDの性能向上、量産化技術並びに更に遠紫外LED関連の情報に注意して行きたい。

 

 

 

 

 

グラフェンで赤外光が可視光に

京都大学大学院理学研究科は2017年5月22日、炭素の単一原子層薄膜であるグラフェン赤外光パルスを照射すると、5分の1、7分の1、9分の1といった“奇数分の1”の短い波長を持つ可視光が生成されることを発見したと発表した。

これは「高次高調波発生」という現象であり、グラフェン(炭素の単一原子層、厚さ0.335ナノメートル)で実現したのは初めてだという。

この現象は1980年代後半にパルス幅が100フェムト秒(100超分の1秒)の高強度のパルスレーザーを希ガス原子気体に照射すると、波長が数10分の1(周波数が数十倍)の高次の高調波が発生することが発見されていた。
しかし固体ではレーザーで物質内部で破壊が起こる(現在のレーザー加工と同じ現象)ため最近迄成功してはいなかった。

数年前に照射する赤外の領域のレーザーの波長を使うことで、破壊現象を起こさずに高次高調波を発生可能であることが報告されて以来、研究が盛んになってきた。

その報告がきっかけで固体への照射による高次高調波発生の研究が盛んになった。だが、そのほとんどは厚い固体の結晶を用いたものだったので統一的な理論モデルが決まらない状態だった。

そこで京都大学大学院理学研究科の研究チームは炭素原子の超薄膜グラフェンで高次高調波を発生させる実験を行った。

その結果、世界で初めてグラフェンによる上に記した様な高次高調波発生を実現した。
すなわち赤外光を波長の異なる可視光に変換した。

この結果はグラフェンの次世代の超高速エレクトロニクスの基幹材料としての利用や赤外光の新しい検出応用への道を開くと期待されている。

更に詳しい情報は下記をご参照。
赤外光を可視光に、グラフェンの新特性が判明
グラフェンの新しい光機能の発見

CNTでも画期的な成果が出ることを切に期待。ノーベル賞候補から遠ざからないためにも。

 

 

 

 

 

線虫を使う画期的早期がん診断方法

我が国ではがんは1981年から死因第1位で、2人に1人ががんを経験し、3人に1人が
がんにより死亡すると言われている。

事実私の知人、友人にもガンでなくなった人はたくさんいる。
とりわけ悲しかったのは、親友が膵臓がんでなくなった時だ。
3ヶ月前までは全く気づかなかったのに。
膵臓がんは初期発見が困難ながんだそうで、発見した時はもはや手遅れと言われている最も恐ろしい病だ。

一般的にがんによる死亡を防ぐ最も有効な手段は、早期発見・早期治療だが、我が国のがん検診受診率は約30%だそうだ。
この受診率は他の先進国と比較しても低く、我が国でがん死亡率が高い大きな要因となっている。低受診率の理由としては「面倒である(医療機関に行く必要がある)」「費用が高い」「痛みを伴う」「診断まで時間がかかる」「がん種ごとに異なる検査を受ける必要がある」などが挙げられている。

現在これらの問題を全てクリアするガン検査方法の開発が進められている。

以前NHKのEテレ「サイエンスZERO」で紹介されていたのを見たが、その時は簡便な方法だと言うことは分かったが定性的過ぎて十分その凄さを理解していなかったようだ。
しかし先日のテレビで最近の状況が詳しく解説されていてこれは凄い方法だと理解した。
なぜなら簡便なこの方法はまさに上に上げた検診を妨げる要素を全てクリアする画期的な方法だったからだ。

このがん検診方法は、九州大学大学院生物科学部門の廣津崇亮助教らが線虫という生物を用いて開発した。

この方法の原理は、線虫の嗅覚を用いるもので、がん患者の尿には近寄っていき、正常な人の尿からは遠ざかるという性質を利用するシンプルな方法だ。

線虫という生物は地球上の1億種位いるそうだが、がん検診に使うのはc-エレガンスという種類で、尿は10倍稀釈で上記性質を示すそうだ。線虫を利用したこの画期的ながん診断テストは(n-nose)と呼ばれている。

この方法のメリットは
1.患者の苦痛がない:検体が尿。
2,簡便:尿を取って検査機関に送るだけ。
3.診断結果がすぐに分かる:1時間半
4.費用が安い:線虫が安く培養出来、高価な機器も使わない。
5.早期発見が出来る。
6.信頼度が高い:242検体による発見精度は95%。
などであり、
この方法の早期実用化の為、廣津助教はバイオベンチャーを起こすとともに、装置の開発を日立と進めている。
この方法(n-nose)により、ガン受診率の飛躍的増加とそれに伴う早期がんの発見率の上昇、そしてがん患者の死亡数の減少、ひいては国の医療費の大幅削減につながることが期待されている。
まさに世界が待望む技術だ。
廣津助教によれば、実用化は2019年だそうだ。

そして将来は遺伝子組み換えにより特定のガンに反応する線虫を作ることにより
がんの種類の特定も出来る様になるとのこと。
そうなればガンは“治る病気”であると認識されるようになり、世界人類全体の福音となると期待される。

本記事は下記サイトを参考にした。
参考サイト1
参考サイト2
参考サイト3

 

 

世界を一変させたネオジム磁石の開発

世紀の大発明と言われるネオジム磁石は1982年に発明されてから30年以上に亘って、最強の磁石として、電気自動車(EV)や風力発電、ロボットなどの普及に貢献している。
これを発明したのは、サラリーマン研究者だった佐川真人氏(73)。
毎年ノーベル賞にもノミネートされている。

日経産業新聞の仕事人秘録のコラムに同氏の幼いときから開発までの足跡が「ネオジム磁石執念一路」として連載(2016年12月7日から22日迄の全11回)されていたので、その概要をご紹介する。
<子供時代>
科学者を意識し始めたのは、小学1から2年生の時父親からノーベル賞の湯川博士の記事を読み聞かせてもらったのがきっかけ。その時「僕は科学者になってノーベル賞をとる」と両親に宣言したそうだ。(小学1,2年で、凄い!!)
小学6年の時父親の事業の失敗で貧乏になり兵庫県に引っ越した。
市立尼崎高校に進学。
<大学時代>
神戸大工学部電気工学科に入学。しかし電気工学には身が入らず、数学、物理、化学をよく勉強。
基礎研究がしたく、大学院に進学。永田教授の応用物理研究室で材料科学を学ぶ。
更に「ノーベル賞」を貰えるような研究をしたい」と磁石業界に人材を輩出した東北大学の博士課程に入学し、金属材料研究所では、自分でサビ防止のテーマを選び博士号を取得する。
<富士通時代>
大学の教員になることが出来ず、富士通に入社する。
配属された研究所ではこれまでの知見が全くないリレーやスイッチに使う磁性材料の開発を命じられた。
入社4,5年後、フライングスイッチに使う磁石の開発を命じられる。要は壊れにくい磁石の開発だ。
当時(1976,7年)はサマリウム・コバルト磁石が最強磁力とされており、この磁石の物理強度を高める研究を始める。

サマリウム・コバルト磁石の発明者は松下電器産業を経て信越化学工業の磁性材料研究所長を務めた俵好夫氏(この人はなんと歌人俵万智さんの父上だそうです。)

しかし研究をすすめるにつれ「なぜコバルトなのか」という疑問を抱く。
元素の中で磁性の強い元素は鉄、コバルト、ニッケルの3つだけだが、磁石の主成分は昔から鉄だった。だから本来なら鉄を主成分とする方が強い磁石になるはず。

コバルト主成分の考えは、1916年本田光太郎が鉄に多量のコバルトを合金化すると鉄だけの磁石の3倍も強い磁石になることを見つけKS鋼と名付け、そのKS鋼が世に出てから主流となった。
その結果それ以後アルニコ磁石(アルミニウム・ニッケル・コバルト)、サマリウム・コバルト磁石が開発される。

磁石は17元素からなる希土類(レアアース)を使うと強くなることがわかっている。
(希土類とは、スカンジウム、イットリウムとランタニド(15元素)のこと)
そこでどうせレアアースを使うのなら、コバルトより鉄の方が良いと素直に考えた。

当時世界中の研究者は「コバルトが必要」という固定概念のため、コバルトの一部を鉄に置き換える実験ばかりしていた。
しかし鉄の割合が2割を超えると磁気特性ががくんと落ちるため皆そこで諦めてしまった。

そこで100%鉄に置き換える(サマリウムを全く使わない)という発想で、なぜ鉄に置き換えても磁石にならないのかの理由を思索した。しかしアイデアは全く出なかった。

発明につながる着想は、1978年の金属材料研究所で開催された「希土類磁石基礎から応用まで」という会合で、東北大の浜野教授の短い説明から得た。
その説明とは「磁石になるには鉄と鉄の原子間距離が近すぎる」ということだった。

そこでレアーアースと鉄化合物の間に炭素やホウ素といった原子半径の小さな原子をにいれれば、鉄の原子間距離が広がるのではないかという仮説を立て動き始めた。

サマリウム+コバルトの代わりに、サマリウム+鉄と炭素やボロンを次々と試した結果
「サマリウム+鉄+ボロン」が有望という結果を得た。
レアアースと鉄だけの組み合わせの化合物ではキュリー温度(磁石が磁気を失う温度)が低すぎて実用磁石にならなかった。

ボロンがいいと分かり、サマリウムを除く16種のレアアース(つまり残り全ての)を混ぜてみた。すると「ネオジム+鉄+ボロン」がキュリー温度と磁気異方性(磁気モーメントの方向を固定する性質)が高いことを発見した。
しかし組成の他に、内部の磁化の乱れが全体に及ぶのを防ぐ為のセル状組織を磁石の中に作り込む必要があった。しかしこれが全然できなかった。

 

最強磁石を追い求めている内に、本来のテーマであるフライングスイッチに使う壊れないサマリウム・コバルト磁石が完成してしまった。

そこで今研究している「ネオジム+鉄+ボロン」の最強磁石の研究をしたいと会社(富士通)に申請したが却下された。

富士通研究所からは「磁石は材料メーカーがやること。半導体薄膜などの最先端の研究」を命じられたが、会社の方針に沿ったテーマ(磁気バブルメモリー等)を提案した。

昼は会社から認められた研究を、夜や土日は「ネオジム+鉄+ボロン」合金の研究を続けた。

 

30代後半になり管理職試験を受け合格し、特許の仕事に移り研究の第一線から退く。

磁石の実験がやりにくくなり、会社を去る決意を徐々に固めたいたためか上司との折り合いが悪くなり、強い叱責を受けた日、辞めますと啖呵を切りついに1982年1月38歳の時辞表を出した。

奥さんの承諾もあっさり貰えたが、辞表提出前から磁石研究を続けられる転職先として考えていた富士電気化学(現FDK)への転職は叶わなかった。

会社の規定で、辞表提出後3ケ月は在籍する義務があり、その間話しかけられることなく同僚は遠ざかって行った。しかしじっと座っているのは嫌で、大学の先輩でもある上司に空いている実験室を使うことを願い出ると、許可をもらうことが出来、溜まっていたアイデアを3ヶ月間で試すことが出来た。

この間で念願のセル状組織作りに成功し、成功した瞬間天井に手が届かんばかりに跳ね上がって一人で大喜びした。

転職先は関西の磁石メーカーに決めていたので、大阪に本社があった住友特殊金属の社長宛に

「コバルトを使わない最強磁石のアイデアがあると」手紙を書いた。

数週間返事が来ないので直接電話すると幸い岡田社長と直接会話することができ、面接後即採用となった。

<住友特殊金属時代>
住友特殊金属には1982年5月に入社。
まず「ネオジム+鉄+ボロン」の比率と添加元素の組成の検討に着手。
練っていた組成50通りのリストと製造条件を部下に渡し次々に試した。

正解はそのリストの中にあった。当時世界最強のサマリウム・コバルト磁石の記録もらくらく超えた。その時の比率はネオジム15、鉄77、ボロン8で今ネオジム磁石と呼ばれているもの。
しかし50℃以上になると磁力が急激に低下する欠点があった。

ネオジムの一部を希土類のレアーアースのジスプロシウムに置き換えると温度特性が格段に良くなった。摂氏200℃でも磁力は落ちなかった。
(ジスプロシウムは2010年に尖閣諸島の帰属問題で中国が輸出を停止)

82年8月から権利侵害されないように特許出願をどんどん進めた。
アメリカの研究チームも違う製法で出願していたが2週間早かった。

開発はとんとん拍子で進み発明してからわずか3年後の85年に量産を開始した。
ネオジム磁石の生産量は85年に年間200トン、86年400トン、87年800トンと倍倍ゲームで増えた。

主な用途は特に、HDDの磁気ヘッドを動かす駆動装置。サマリウム・コバルト磁石の2倍の磁力があるのでHDDの大容量化、エアコンの小型・省電力化はネオジム磁石が支えたと言われる。

ネオジム磁石の論文発表や特許出願でのトップネームを巡る社内関係のしこりで、在籍5年半の住友特殊金属を去る。住友特殊金属は2004年日立金属子会社化され現在完全に吸収合併されている。

<ベンチャー時代>
1998年2月住友特殊金属を辞めインターメタリックス(IM,京都市)というベンチャー企業を設立し世界を飛び回るも思うような成果は得られず。

2000年優れた事業を支援する「京都市ベンチャー企業目利き委員会」に選ばれる。
テーマはジスプロシウムが無くても耐熱性が高いネオジム磁石の開発。

2002年中小企業基板整備機構が運営する京大桂ベンチャープラザ(京都市)に入居し研究に専念。
そこで「プレスレスプロセス(PLP法)」という磁石の製法からプレス工程を省く新製法を工業化。
PLP法のメリットは、切り分け作業が無いので切り屑が出ない、酸素などの不従物の混入が無い、どんなに微細な粉末でも成形して磁石を作れること等。

磁石の粒径は小さいほど保持力と耐熱性が上がりジスプロシウムの使用量が減る。
この考え方は昔からあったがPLP法で工業化の道が開けた。

2010年秋に発生した尖閣諸島問題を端緒に中国がジスプロシウムの輸出を停止したことで脱ジスプロシウムの磁石開発が加速する。

三菱商事、大同特殊鋼、米モリコープの3社が出資し、磁石製造会社のインターメタリックス・ジャパン(IMJ)を設立。
13年からPLP法によるネオジム磁石の量産を始めた。
IMとIMJはともに大同特殊鋼の全額出資になり今年(2016年10月)顧問に迎えられるも自身は京大桂ベンチャープラザ内で、組成にちなんで付けたNDGEBというベンチャーで研究を続ける。
ネオジム磁石の生産は年10万トンを超え年10%のペースで増えている。

<終章>
そもそも鉄を主成分とする最強磁石開発の元になった考えは「磁石になるには鉄と鉄の原子間距離が近すぎる」という理論だった。
そこで原子半径の小さな原子をレアーアースと鉄の間に入れれば鉄との原子間距離が広がるだろうという仮設を立てて、「ネオジム+鉄+ボロン」という組成を発見。

しかし後の解明の結果、原子間距離は広がってはいなかったことが判明。
ボロンと鉄の電子が化学反応を起こしボロン付きの鉄がコバルトとほぼ同じ状態に変わっていた。(鉄のコバルト化という現象)

2012年、社会と学術に貢献した科学者を表彰する日本国際賞を受賞。
(日本国際賞は、日本版ノーベル賞と言われる)

好きな言葉に米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏の「Stay hungry, Stay foolish」(貪欲であれ、愚かであれ)がある。

立てた仮設は間違っていたが、信念(磁性の強い鉄が一番いいはず)を元にコツコツとやり続けた。
開発の原動力は悔しさだった。

若い研究者には、会社が認めた公式テーマと自分が情熱を持てる非公式テーマの研究を同時に進行させることをすすめる。テーマは社会の潜在ニーズに基づいて選ぶ。

次の「ニュークリエーション」(従来の常識から離れた場所で研究が始まること)を生み出して欲しい。

<編集後記>
はじめにも書きましたが上記文は日経産業の2016年12月7日から22日までの11連載を要約したものです。
当初簡潔に要約するつもりが、省き難い部分がかなりあり省けず、結局かなりの量の文になってしまいました。
尚原文で詳細に知りたい方で、新聞で読みたい人は図書館に行けば見れると思います。(要確認)
ですが、サイトでもそのまま出ていますのでこちらの方が手軽に見れますね。

最初の頁のみ下記に示しますので頁をめくって見て下さい。
ネオジム磁石執念一路(1)~(5)
ネオジム磁石執念一路(6)