EV走行1000kmを可能とするフルオライド(フッ化物)イオン電池とは

ノーベル化学賞の対象となったリチウムイオン電池は現在も主流だが、現行リチウムイオン電池を超える各種の新型電池が世界中で研究されている。

主流はリチウムイオン電池の発火の原因である有機液体電解質を発火の心配がなくほかの利点も多い固体電解質を使用した全固体電池の開発で、すでに超小型製品では一部量生産移行されている。固体電解質は硫化物系と酸化物系があるが現在は 前者が先行している)

その他リチウムイオンに代わるものとしてはナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンなどの金属イオン電池が研究・開発されている

産業用新型電池の用途に関しては大きく静置用車載用に分けられるが、静置型電池としては以前当ブログで紹介したバイポーラ型全樹脂電池やバイポーラ型鉛蓄電池等がある。

高性能を要求される車載用電池はトヨタ自動車が固体電解質で開発中で、
2022年度にもこの電池を搭載したEVが発売される予定になっていた。

今年2020.8.10の記事ではトヨタと京大が開発したフルオライド(フッ化物)イオン電池はEV走行距離1000kmを実現できる能性の目途を付けたとされた。

フルオライドイオン電池の研究は現在まで約50年の歴史があるのだが実用化に至らなかった。しかし最近リチウムイオン電池を超えるその性能の高さが改めて見直され各企業での研究が再加熱している

更に新しい電池の開発が直近でも種々報じられておりこれらの最新記事を追いたいが、その前にこれまでの主流であったプラスイオンではなく、マイナスイオンを電電荷移動体として使う電池の代表であるフルオライドイオン電池について一度確認しておきたい。
(掲載図は、参照サイト1~5より適宜借用させて頂きました。)

〇フルオライドイオン電池とは、その特徴

・電荷移動体としてフルオライドイオン(フッ化物イオン)を使った電池のこと。(注:フッ素原子が電子を1個得て単独でイオン化した陰イオン (F) はフッ化物イオンと呼ばれる。昔のフッ素イオンと言う名称は現在推奨されていない。)

・フルオライドイオンは非常に安定していて、広い電位窓(ある電気化学系[溶媒・支持塩・電極の組み合わせ]で有意義な測定可能な電池領域)をもっているから、電池の電荷移動体として高いポテンシャルを持っている。
・ネルギー密度が高いこと。原理的にリチウムイオン電池の少なくとも7倍最大10倍ある。
・その高い理由は、リチウムイオン電池がイオンを収納するもの(ホスト材料)を使いその材料の重量や容積が嵩んでいるのに対し、フルオライドイオン電池はそれ(ホスト材料)を使わず、金属そのものを電極として使っているので、エネルギー密度を大幅に上げることができるため。(参照1)
(ただしリチウムイオン電池の充放電特性(リサイクル性)がいいのはこのおかげではある。)
またフッ化物1分子の反応で一度に複数個のフルオライドイオン(つまり電子)が関与するため。
・充放電のフルオライドイオンの移動(上図)

・フッ化物は環境負荷(採集にかかるエネルギー)が小さく、資源的な問題はない。

〇フルオライドイオン電池開発の歴史

・1970年代にフッ化物をベースにした電池の研究論文が発表されている。
当時は固体電解質だったので日常的な使用は出来ず実用的ではなかった。

・◎2017年までのフルオライドイオン電池の正極、負極の物質の可能性や電解質として液体、固体の両電解質の研究・試作に関して。(特に固体電電解質としてLa/Ba/F=0.9/0.1/2.9がこの時点で検討されている。
(参照2)

・2018年12月ホンダ・リサーチインスティテュート、カリフォルニア工科大学、NASA等がフッ化物イオン用の液体電解質(BTFE)を発見し、室温で使用可能なフルオライドイオン電池を作る方法を発見していた。(参照3)

・その後2019年この液体電解質および電極の改良が京大/日立を中心としてなされた。当時リチウムイオン電池の8倍長持ちするとされていた。(参照4)

・2020年3月、京大と国の研究機関(NEDO、RISING、同2)により中性子回折等最新装置を用いて固体電解質のイオン伝導メカニズムが解明された。BaF2(蛍石型)にBaの代わりにLaを40%加えると伝導度が4桁上昇することが分かった(参照5)(Tはケルビンで図の右の方が温度が低い。アレニウスプロット参照)

その時の結晶構造とイオンの流れの解析


〇2020年8月京大とトヨタは固体電解を使ったEV用フルオライドイオン電池を発表。(日経記事

・エネルギー密度をリチウムイオン電池の7倍に高められる電池の製造に目途を付けた。
・電極構成はフッ素と銅やコバルトにニッケルを含む正極とランタンの負極で調べ
更に今回電解質に固体電解質(Ba/La系か)を使用し、
両者の相乗効果で1000km走行の目途を付けた。
・各種課題については負極の材料などを工夫して対応するとしている。
・「1991年にソニーと旭化成が製品化したリチウムイオン電池は、今や中国と韓国のメーカーが圧倒的な存在感を放っているが、日本が電池技術のリーダーとなりえる近未来はフルオライドイオン電池が担っているような気がする。」
としつつも、
・元素の組み合わせにはいろいろあり、今後AIを使ったMI(マテリアルズ・インフォマティクス)で開発を行なうようになることが主流になるが、コンピューターを使うこの技術は米国や中国が優位に立つ可能性があると締め括っている。

 〇フルオライドイオン電池の課題

・充放電サイクル特性が低いこと
 液体フルオライドイオン電池では、改善後でも20回の充放電サイクルで
 30% の低下。
 ・固体電解質型薄膜セルでも30回で約25%低下。(参照1)
・正極金属の膨潤
・固体電解質は現在常温使用できない。(160度位の加熱必要)

〇次世代電池が各社で研究されている理由

「電池を制する者が世界を制す」
(技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター石黒常務理事

蓄電池の世界市場は車載用だけでも非常に大きい(3年後6兆円を超える予想)
しかしEVが普及すると街の至る所にあるEVが蓄電池群となって再生可能エネルギーを社会全体で使いこなす巨大な蓄電池網を築くことになる。
そして交通、通信技術の進歩とも合わせ社会全体を制することになると考えられている。

<所感>
・今回トヨタと京大が発表した固体電解質を使用したフッ化物イオン電池(FIB)はEV走行距離1000kmの可能性はあるとしても、耐久性(サイクル特性)、コスト、常温使用等いろいろ課題があり解決するまでまだ相当の時間がかりそうだ。
 逆にリチウムイオン電池は今後も改良(電極、電解質等)され続けられるだろうからまだ10年以上主流であり続けるとの見方もあり、非リチウム金属イオン電池など各種新型電池の台頭・進歩とも合わせてフルオライドイオン電池の進展をウオッチしていきたい。

<参考資料>
参照1リチウムイオン電池を凌駕する革新型蓄電池の基礎技術を構築
参照2:最新フッ素関連トピックス「フルオライドイオン電池」
参照3リチウムイオンの数倍高性能――液体電解質を用いたフルオライドイオン電池2018-12-25
参照4:有機電解液中のフッ化物イオンシャトルを用いた新規二次電池反応の開発
参照5:フッ化物イオン導電性固体電解質のイオン伝導メカニズムを解明

<最後に>
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
お疲れになった頭の休憩に動画をどうぞ。そして発表されたフルオライドイオン電池についての再確認も。
2つの動画は同じ内容ですが、非常に分かり易くまたそれぞれの表現方法・技術が興味深かったので敢えて2つとも
紹介させて頂きました。

動画1:トヨタと京都大学が開発した「次世代電池」が画期的すぎる!ここから
動画2:トヨタと京都大学が開発中の「フルオライドイオン電池」が画期的すぎる!ここから(意外な言葉の前に小さな音が)

バイポーラ型鉛蓄電池は定置型の主流になるか?

これまで直近のブログでは最近急激に注目を集めてきた全樹脂電池を3回に亘って取り上げてきた。

この全樹脂電池はバイポーラ型としているため、積層して使え、省スペース、余分な筐体(ケース)や配線が不要、製造工程がシンプル等の特徴を持ちリチウムイオン電池にくらべ大幅なコストダウンができるとされている。そしてその用途としてAPB社は再生エネルギー保存用としての定置用を狙っている。

この定置用電源は今後の再生エネルギーの増大に対応電源として非常に大きな市場(2019年の3000億円から2030年には8000億円規模)になると予想されており、現在稼働中のものも含めいろいろな電池が候補に上がっている。
(以下の図は最後の参考サイトから引用)

この定置用電源として、従来型(有機液体電解質使用)のリチウムイオン電池はリサイクル性と安全性に問題があり、更にまだコストが高いとされており、最近バイポーラ型全樹脂電池が注目されている。

しかし、実は以前からずっと注目されていた電池がありました。

それは鉛蓄電池。鉛蓄電池は誰でも知っているように現在も一般ガソリンエンジン用の12Vの主バッテリーとして、またEV用でも補助バッテリーとして重要な役割を演じており、“枯れた技術”とされていているが、この鉛蓄電池のバイポーラ型製造が研究されていた。

考えられているバイポーラ型鉛蓄電池の特性は下図の様に理想的ともされている。

しかし実用化のための3つの大きな技術的課題がありこれまで実現していなかった。
その3つの課題とは
①「鉛箔の薄膜化と長寿命の両立」
②「樹脂プレートの成形と接合技術」
③「鉛箔と樹脂プレートの異種材料接合」

これらの課題は古河電気工業のメタル/ポリマー技術および古河電池の電池/加工技術を駆使することで解決され、ついに「長年実用化困難とされたバイポーラ型蓄電池の量産実用化のめどが立った」としている。

最終的に公開されているバイポーラ鉛蓄電池のデータは以下の通り。

  バイポーラ型蓄電池の概要

APB社バイポーラ型全樹脂電池についてもこの形のデータ(特に寿命データ)を入手したい。


古河電工Gは鉛バイポーラー電池を2021年度中にサンプル出荷、2022年から製品出荷し、電力事業者、発電事業者を中心に展開する予定。

APB社も2021年中に生産開始することを公表していますが、コロナ禍の問題もあり両社とも進展が遅れるかも。

”枯れた技術”による鉛バイポーラー電池と最新技術とされる全樹脂電池(APB)両バイポーラ電池の今後の推移に注目して行きたい。
(上記本文と図は以下のサイトより適宜引用した)

<参考サイト>
・◎再生エネ活用の本命「バイポーラ型蓄電池」
・◎実用化困難とされた「バイポーラ型蓄電池」を量産へ
鉛バッテリーがリチウムイオン電池を超える、古河電工がバイポーラ型蓄電池で
再エネ用蓄電池の本命か? リチウム電池を超える新型鉛蓄電池が量産実用化へ
・◎“枯れた”鉛蓄電池でリチウム電池超え、古河電工が22年量産へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日産から飛び出した全樹脂電池技術のもう一つの行先は中国

日産が電気自動車EVを発売したのは2010年だが、当時日産はリーフ用電池を外部から調達できず電池は内製するしかなかった。

しかし近年、内製より低コストで調達できる外部環境が整ったため、日産はEV用電池を自社で開発・製造するのではなく外部から調達する方針に変更した。

2020年に量産を始める予定のEV専用の新プラットフォーム(車台)を適用した新型車からは外部の電池メーカーから積極的に調達する方針だそうだ。

この方針転換で、これまで日産社内で電池開発を担当する技術者にとっては優れた技術を開発しても内製できる可能性が殆どなくなったため、多くの電池技術者が日産を離れた。

その一人が堀江英明氏
同氏は1990年に全樹脂電池の構想を始め2018年日産を飛び出してAPBを立ち上げた。そして19年2月には三洋化成工業の子会社となり全樹脂電池の開発・生産を共同で進めることになった。そして資金を集め2021年には量産を開始する計画を打ち出した。(ここら辺の状況についてはこれまでのブログをご参照。)

 一方堀江氏とは別に日産から飛び出したのは
技術者の他に日産の子会社として電池生産を担当してきたオートモーティブエナジーサプライ(AESC。同社は中国の再生エネルギーの大手であるエンビジョングループの傘下に入りエンビジョンAESCグループとして2019年4月に再出発した。

同社は2020年12月から新型電池の量産開始を予定しておりその最大の特徴はセル形状ドイツ自動車工業会(VDA)規格に合わせたことだ。
VDA規格(付記参照)の電池は欧州の各自動車メーカーが既にEVに搭載しており、現在CATL韓国LG化学などが供給しているが、エンビジョンAESCグループはこの一角に入ることを狙っている。

新工場の場所は中国の無錫市。同社の現在の生産能力は日米欧で7.5ギガワット時であるが、これを2023年までに20ギガワット時まで生産量を増やす強気の戦略を描く。

(以上日経クロステック2020年4月23日付け記事/6月8日付け日経産業新聞6月8日付より抜粋)

詳しくは同誌をご参照ください。

 

最後に、日産を飛び出した電池技術がそれぞれAPB/三洋化成工業の静置型大型電池狙いとアンビジョンAESCグループのEV用途向けとなったわけであるが両社の今後の行方に注目して行きたい。

 

<付記>
VDAに関して
1.簡単
2.わかり易い
3.ウィキペディア

 

 

 

 

 

日産自動車、全樹脂電池特許をAPBにライセンス供与

これまで全樹脂電池に関しては過去3回の記事でその概要は知ることが出来た。
そして21年以降大量生産に移行する計画も立ち上がったことも知った。

しかしはっきりしない懸念部分もいくつかあった。
其の一つがAPBの堀江社長が日産在籍中やその後慶応大大学院での日産との共同研究での特許の件だ。
当然これらの特許はAPBが単独で自由に使えるものではない。大量生産に当たるに際し、これら特許技術の使用条件に関する情報がなかった。

この度、4月16日付けで日産自動車は表記のように、全面的にAPBにライセンス供与することになりこの問題はスッキリした。

以下、下記に添付した日産のニュースサイトとメディアのサイトから抜粋した部分にこれまでの情報をあわせてご紹介します。

以下抜粋と追加文で再構成
日産自動車は2020年4月16日、次世代リチウムイオン電池の1つである「全樹脂電池」を開発するAPBと、バイポーラ電極構造の全樹脂電池の要素技術に関する特許やノウハウの実施許諾契約を締結したと発表した。
APBは日産自動車と全樹脂電池を共同開発してきた三洋化成工業とも同様の契約を結んだ。これによりAPBは非自動車用途における全樹脂電池の開発と製造、販売を行えるようになる。
APBは今回のライセンス契約の締結によって「全樹脂電池の根幹となる革新的な技術群を得ることができ、本格的な生産に向けた基盤が整う」(堀江氏)とし、定置用蓄電池の製品化に向けて動き出す。また、日系企業7社から80億円の出資を受けて、1年間にギガワットアワー(GWh)規模の電池を生産する工場を日本国内に建設する。

日産自動車は2002年ごろから全樹脂電池の研究を本格的に開始しており、現在も取り組んでいる。今後も全樹脂電池の研究開発を継続するそうだ
三洋化成工業も、引き続き全樹脂電池に経営資源を投入し、APBと共同で開発を進めていく。
尚、三洋化成は高吸収ポリマーで世界首位の日本触媒と今年10月1日に予定していた統合(新会社シンフォミクス))を来年4月1日に延期した。

今回の発表資料で使用された図(A図)がちょっと気になりました。
A図
全樹脂電池はバイポーラ電極構造を有する全樹脂電池であり
「バッテリーセルの表・裏面をそれぞれ構造体であると同時に正極・負極の機能を有する樹脂集電体で形作り、複数のセルを重ねることで、バイポーラ構造の組電池の構成を可能とする要素技術」とされている。
使用されたA図は全樹脂電池のケース自体が電極で有ることが分かり難く理解し難い図だ。
B図
対して、B図は上記で説明されている両側のケース自体が正負の電極になっていることがわかり易いと思うが。

<参考>
APBの代表取締役社長の堀江英明氏は日産自動車に1985年に入社し1990年以降日産自動車で電動車用高性能電源システムの研究開発で「リーフ」のリチウムイオン電池開発に携わり、2012年からは電気自動車の電源システム開発に従事しながら東京大学の特任教授を兼務していた。全樹脂電池は同氏が1990年代から構想し、2012年から日産自動車と三洋化成工業が共同で要素技術の研究開発を進めてきた。
【堀江英明氏による全樹脂電池のコメント】
「従来、電池のデザインにおいて、電流を通す端子や集電体は、抵抗を低減するための部材として金属であることが必須と考えられてきました。我々は今回、世界で初めて、集電体を含めた電池骨格を全て樹脂材料で再構築し、またバイポーラ構造を採用することで、出力は従来同様に確保しつつ、異常時においても電池内部での急激な発熱・温度上昇を抑制する、世界初の電池デザインとそれを支える一連の革新的な技術群を創出し、この高性能電池を『全樹脂電池』と名付けました。」

全樹脂電池は、
電解質と電極を樹脂に置き換えることで安全性を向上する。バッテリーセルは、構造体であり電極の機能をもった樹脂集電体で構成する。バイポーラ電極はセルケースと密着しており、セルケースの外側から広い面積を使って電気を流すことができる。容積あたりの充電容量を増大する。また、「電極の断面積が広いほど抵抗が下がるため、効率よく電気を出し入れできる構造だ」(日産自動車)としている。このようなセルを複数重ねることで組電池となる。従来のリチウムイオン電池と比べて構造がシンプルになるため、コスト低減が図れる。コスト低減によって定置用蓄電池が普及すると、深夜電力や再生エネルギー電力の有効活用が進む。ピーク時の電力消費の抑制や、安定した効率的な電力活用の実現にもつながるとしている。

懸念事項その2は
やはり2次電池としての性能特に蓄電容量、充電速度、特に耐久性繰り返し充放電による劣化等)のデータです。

電池容量については当初(2019.6.3の記事)ではリチウムイオン電池が300Wh/Lに対し
最大560Wh/Lとされていましたが、量産計画発表時での性能は300Wh/Lとされていて
ほぼ現在のリチウムイオン電池並です。
しかし充電速度や特に耐久性についてはこれに言及した発表記事は見かけないようですのでちょっと気がかりではあります。が、21年には量産に移行する計画なのですから、筆者が入手出来てないだけでベストデータは然るべきところに出ていると思います。

尚、この樹脂電池の市場はエネルギー事業者が長期間に亘って使用する「定置用」が最も狙い目なのでしょうが、「魅力あるがハードルが高い」EV用に対し、「魅力もありハードルも低そう」なこの市場は多くの競合製品が虎視眈々と狙っているはずです。
今のところ製品コスト的には最も有望そうではありますが・・・。
第2、第3の市場も考えて置く必要もありそうです。
全樹脂電池の特徴を活かせる民生用、工業用分野が必ずあるはずです。

今後、最強ライバルと考えられる全固体電池の動向とも合わせ、全樹脂電池の行方を追って行きたいと思います。

 

2019/2/15
三洋化成の「全樹脂電池」 10年後1000億円規模に 3Dプリンターで複雑な形状も

2020/04/13
日本触媒と三洋化成、統合を21年4月に延期

2020/04/16
日産自動車、先進的なリチウムイオンバッテリーの要素技術をAPB株式会社にライセンス供与

2020/04/17
◎日産が「全樹脂電池」で技術供与、ベンチャーが定置用蓄電池向けに量産へ


下記サイトは日産のテクノロジーライセンスの全体がわかるサイトですので
日産のテクノロジーライセンスについて興味ある人はどうぞ

 

 

 

全樹脂電池が量産移行へ

現在のリチウムイオン電池の欠点である発火・燃焼・エネルギー密度の問題を解決すると期待される全固体電池と平行して急遽?登場した全樹脂電池に付いて、前回の記事で当時の情報を纏めて紹介したが、いよいよ大量生産につながるニュースが3月初旬に出た。
そこで今回はおさらいを含めてその状況をご紹介したい。

1.発表内容
 三洋化成工業は4日、電池技術開発のノウハウを持つ子会社APB(東京・千代田)が国内7から第三者割当増資で約80億円を調達すると発表した。APBは福井県越前市で用地と建物を取得し、第1工場を設けた。第1工場の敷地面積は2万3733m2、延床面積は8628m2。2021年に操業を開始し、全樹脂電池の量産技術を早期に確立することを目指す。次世代電池の開発競争で先行する全固体電池などを追い、5~10年後をめどに数千億円規模の事業に育てる狙いだ。
APBは代表取締役である堀江英明氏が、三洋化成工業と共同で開発したバイポーラ積層型のリチウムイオン電池である全樹脂電池(All Polymer Battery)の製造及び販売を行うスタートアップ企業。
出資した7社とはJFEケミカル、JXTGイノベーションパートナーズ、大林組、慶應イノベーション・イニシアティブ1号投資事業有限責任組合、帝人、長瀬産業、横河電機
JFEケミカル:負極材料のハードカーボンの提供と電池開発。
JXTG、長瀬産業:様々な材料の提供。
大林組:ビルなどでの定置用電池の設置。
帝人:ナノカーボンの提供

2.全樹脂電池とは
全樹脂電池はAPBと三洋化成工業が共同開発したバイポーラ積層型リチウムイオン電池で、集電体も含めた電池骨格を全て樹脂材料で構成している。
全樹脂電池には界面活性技術を持つ三洋化成が新開発した樹脂を用いる。活物質に樹脂被覆を施し、樹脂集電体に塗布することで電極を形成している。
特徴としては、従来のリチウムイオン電池と同様の出力を確保しつつ、異常時の急激な発熱や温度上昇を抑制できる点がある。全樹脂電池は釘を打ったりドリルで穴を開けたりしても発火しない
また、独自の製造プロセスにより工程を短縮することで従来のリチウムイオン電池よりも大幅な製造コスト低減リードタイム短縮が図れる。
部品点数が少ないことに加えて、樹脂で構成することで電極を厚膜化し易いためセルを大型化し易く、高いエネルギー密度を実現している。
形状の自由度も高く、「リチウムイオン電池の理想構造」(APB)だとしている。

以下参考サイトからの引用図で説明します。

従来の電極(左)とバイポーラ電極(右)での電流の流れの比較
(従来は電流は電極につながるリード線を通って流れるのに対しパイポーラ型は面全体を通して流れる。)

電池の製造プロセスの比較
(ロールツーロール方式なので工程が少なく生産性がアップし、低コスト化につながる)

電解質の伝導度の比較(リチウムイオンの伝導度(輸率)が常温でも数倍高い)

単セルの構造とモジュールとした状態
(積層するだけで、結線や収納箱が不要なので省スペースとなり、単位体積あたりのエネルギー密度が高くなる)

全樹脂電池モジュール(左)とその内部構造(右)

上記全樹脂電池に関して、形状や生産プロセスはこれまでの情報で判るが、製品(試作品)の静置型電池としての諸性能(特に耐久性)が十分なのかどうかが今一不明なので若干の懸念を持たざるを得ない。今後全樹脂電池に関しては電池性能を主体に注目して行きたい。

 

ところで
先行する競合製品である全固体電池の開発・生産状況については
トヨタ自動車が22年からEV(電気自動車)に搭載するとされているが・・・。
一方小型全固体電池村田製作所TDKは20年中にも量産化する。
また京セラは電解液を電極に練り込んで粘土状にする独自技術を使った新型電池を20年にも本格量産するという。
しかし従来型のリチウムイオン電池もまだまだ改良(不燃化、高性能化)がなされており、更に非リチウム金属を使用する電池も開発・進化中であり、今後の2次電池の技術ニュースに目が離せない。

 

<全樹脂電池関連参考サイト>
日経2020/3/2
三洋化成、福井で全樹脂電池を量産 工場新設を正式発表

R Times 2020年3月4日
APB株式会社 次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行うAPB、約80億円の資金調達を実施

日経2020/3/4
全樹脂電池量産へ7社とタッグ 三洋化成、80億円調達

Motor Fan 2020/03/04
「全樹脂電池」ってなんだ? 次世代型リチウムイオン電池開発でAPBが80億円を調達

大林組 2020年 03月 04日
次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行うAPB社へ出資します

<最新ニュース>
2020/07/20
APB:全樹脂電池を川崎重工の自律型無人潜水機に搭載して実証試験を開始

 

 

 

 

 

 

 

全個体電池の新製法出現。全個体リチウムイオン電池の実用化が早まるか?

現行のリチウムイオン電池の性能を上回る固体電解質を用いた全個体リチウムイオン電池の開発が世界中で競われている。

我が国については、大枠以下の状況であろう。

1.車載用全個体リチウムイオン電池(東工大/トヨタグループ)
東工大の菅野教授が1911年に開発したLPGS系から進化した固体電解質を用いたリチウムイオン電池がEV用途としてトヨタ自動車を先頭に22年の実用化を目指して開発されている。(関連ブログ有り)

2.超小型~小型の全個体電池
既にTDKをはじめとした電装部品メーカーで商品化された(セラチャージ等)。

3.全樹脂リチウムイオン電池
元日産でEVの電池開発に携わった堀江氏が慶応大に移り、ゲルを用いた全樹脂リチウムイイオン電池を開発し、高吸水性ポリマ―メーカーである三洋化成と日本触媒とで共同開発が進んでいる。(前回ブログ)

このような状況の中
ベルギーの研究機関imecが開発しパナソニックも参加する新しい製造法で、安価で大容量の全個体電池が出現し、大型電池の実用化の前倒しが期待されている。

以下日経エレクトロニクス2019.8月号、(日経産業新聞9.27)より抜粋し概要をご紹介する。
その特徴は固体ナノコンポジット電解質(SCE)を開発したことである。

先ず電極の構成として
・正極の形成。これは既存の液体電解質のLiBと同じ。
今は正極にリン酸鉄リチウム(LiFePO)(LFPと表記)を使用。
・負極には金属リチウムLiを使用。
これらは今までと同じだが

imecが開発した電池の最大の特徴はその個体電解質でありその製造プロセスが注目されるものである。
即ち
・液状の電解質を電極に染み込ませた後に乾燥して固化する。
・この固体電解質の主成分はSiO2でありふれた酸化物材料であるが、比表面積が   1400m2/g(活性炭レベル)と極めて高い多孔質になっておりその内壁にイオン液体のLi塩が結合している。
この製造法は、ゲル作成の古い技術と新しい素材であるイオン液体を組み合わせたところに特徴がある。

電池製造の流れ(考サイト1より)

TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)イオン液体によるゲル電解質の形成

・まず、TEOSと呼ぶSi系材料をイオン液体中に分散させた後、水を加えて(加水分解して)ゲル化する。
水を除去後、さらに二酸化炭素(CO2)を用いた超臨界乾燥を施す。
すると「エアロゲル」と呼ばれる極めて軽いスポンジ状の固体材料になる。
この方法は80年前からある技術だが、イオン液体を混ぜる点が新規なところ。
これが、上述の電解質が液体から固体になるプロセス。
この構造により、電解質は固体化後も弾力があり、充放電に伴う電極中の活物質の膨張収縮を吸収できるとする。

この電池の特徴は
1.製造
・コバルト等の高価な資源を使わず、従来のLiイオン電池をつくる設備を流用出来るため
低コストで製造が出来る。
大型(A4サイズ)も製造可能。

2.性能
・体積エネルギー密度425ワット時/リットル(以下Wh/Lとする)、この値は現在のLiイオン電池とほぼ同じだが、2024年には1000Wh/Lまで高められるとする。

その根拠としては
・現在用いている正極材料は電位窓約3.5Vのリン酸鉄リチウム(LFP)だが、同5.5Vの正極活物質を使えば約1000Wh/Lも可能となる。(現在のLiBは800wh/Lが限度とされている)
・今回の電解質が高温に強い(320℃まで利用可能)ため、現在の車載用LiBでは必須の冷却システムが不要となり現状でも現在の約2倍の体積エネルギー密度となる。
・充電時間も現在は2時間程掛るが将来大幅に短縮(20分で充電)出来るとしている。
・imecが用いるこの固体電解質のイオン電導率は現在約10mS/cmで東工大/トヨタ自動が開発した電解質と同等の性能とされる。同社はさらにこれを10倍の100mS/cmに引き上げる事を目標としている。 

現在の課題は急速充電の実現。
一般に全個体電池は急速充電に優れた物が多いが、このimecの電池の急速充電特性は液体電解質のLiBと同等かやや低い。速くすると急速に容量が低下する。
この原因として2つが推測されている。
その1.固体電解質がイオン液体とのハイブリッドであること。
その2.Li負極を用いるためデンドライト(樹状突起)ができこれが充放電の律速となっていること。
しかしimecはこの対策として、電極の構造をジャングルジムの様な規則的な空間を備えた
ナノメッシュ電極とすることで制御出来るとしている。 

今後現行リチウムイオン電池の頑張り(さらなる性能向上)と新固体電池の商品化の進展に注目して行きたい。

<参考サイト>
1.imecがA4型5Ahの全固体電池、高伝導率酸化物系電解質で

2.全固体電池の実用化、目前に TDKと日立造船、今年から本格量産 「安全で大容量化」容易に2019.3.25 

3.全固体電池の菅野教授が語る、EVはこう進化する(東工大菅野教授)
次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか(2018年1月17日)

4.全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクトの第2期が始動
(2018年6月15日)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

5.イオン液体【ウィキペディア】

6.電気伝導度の基礎

 

 

 

開発進む次世代電池

現在リチウムイオン電池が全盛ではあるが、いくつかの問題や課題(火災の危険性、充電時間が短い、容量が小さい、資源問題等)があり、これらを乗り越える次世代電池の開発競争が激しくなっている。
以下その概要は以下の通り。

電池の種類 特徴 用 途 現在の課題 実用化の目標
全個体電池(硫化物型) 急速充電が可能  

電気自動車(EV)

空気に触れるとガスが生じる 2020年代前半
(トヨタは過去22年としたが)
全個体電池(酸化物型) 安全で扱い易い イオンの動きが遅い(10分の1) 2030年代
(小型はTDK等で先行試生産中)
ナトリウムイオン電池 資源が豊富
安価で高い出力
定置型大型蓄電池

(風力発電用)
(太陽光発電用)

電池が重い
(EVには不向き)
数年後
リチウム硫黄電池 安価で高容量 耐久性
(硫黄が溶け出し劣化し易い)
2030年以降
リチウム空気電池 小型で軽量 ドローン
ウエアラブル端末
水分に弱い
寿命が短い
2025年

1.全個体電池
2011年東工大菅野教授が既存の液体電解質の性能を上回る固体電解質を発見してからその後急速に研究が進展した。ただし硫化物系のため、空気に触れるとガスが生じる等の問題がある。これを解決できる酸化物系の開発が進んでいるがイオンの動きが遅い等の問題があり実用化は硫化物系よりだいぶ先になるとみられている。
電気自動車(EV)用途に、トヨタやパナソニックが開発中。
しかし非自動用としてセンサーやウエアラブル端末には、酸化物系の小型製品が既にTDKやFDKで試生産されている。

全個体電池に関しては別途また取り上げたい。

2.ナトリウムイオン電池
ナトリウムイオン電池の最大の魅力は安さだ。資源は普遍的に存在し枯渇の心配はない。また電極はリチウムがコバルト等の高価な金属を使用するのに対し、安い鉄などが使える。課題は電池が重くEVに乗せると後続距離を伸ばし難いこと。
したがって移動用ではなく自然エネルギーで作った電気を蓄える定置型の大型電池が有力。実用化も数年後と見られている。

3.リチウム硫黄電池
安価な硫黄を使うリチウム硫黄電池も自動車用は不向きで、ナトリウムイオン電池と同様定置型が適している。コストは4分の1になるとされるが、電極の硫黄が溶け出しやすいなど耐久性が問題。

4.リチウム空気電池
一時電池としては既に販売されているが、二次電池として現在開発中。
小型電池として有望。空気中の酸素で充放電する。ドローンやウエアラブル端末等の用途が期待されている。18年4月ソフトバンクとNIMS(物材機構)が25年の実用化を目指し共同研究を始めた。

最後に
現在全盛の液体電解質を用いたリチウムイオン電池の後継として全個体電池を始めとして
各種の電池が研究・開発されているが、現行電池の改良も進んでいるため、中型以上の電池については、完全に置き換わり得る電池が出てくるかまだ予断を許さない。
現在全個体電池が最も注目されているが、IOT時代を見据え、既に大量の超小型品が生産されている現状を見ると、まず超小型全個体電池が最も早く生産拡大・普及していくのでは無いだろうか。

 

次世代電池サイト
その1.(NEDO)
その2.(JAIMA)
その3.(JST)
その4.(日経XTEX)

 

 

 

夢の全個体電池(NHKサイエンスZERO)

先日NHK-Eテレ「サイエンスZERO」で全固体電池開発の番組があったので概要を紹介したい。

冒頭EV自動車レースの場面が展開される。
この部分は、現状のバッテリーをEV自動車レースに使うとバッテリーが大きい、充電時間が長い、高速走行では持続時間が短くなる(即ち航続距離が短縮)等の現在のリチウムイオン電池での問題を視聴者にわかりやすくアピールしたもの。
これら現状のリチウムイオン電池の問題は、電解質に可燃性液体を使っているためであるが、これらの問題の解決には、当面の主流として電解質を固体にした全固体電池と考えられ現在世界中で開発競争が繰り広げられてている。(過去ブロブもご参照ください

東工大の菅野了次教授は、30年も前からこの固体電解質でのリチウムイオン電池を研究していた。
しかし研究開始から10年たった1991年、液体の電解質を使ったリチウムイオン電池が実用化され現在主流の二次電池としてIT機器等各所に使われている。(より短時間での充電、長時間の使用等の要望はあるが)
その開発者の一人吉野彰氏は毎年ノーベル賞候補に上がるが、今年日本版ノーベル賞ともいえる日本国際賞を受賞した。

そんな中、菅野教授は固体電解質にこだわり続け、最近実用一歩手前(9合目)まで来たという。

その背景には3つのブレイクスルーがあった。

ブレイクスルー1:
2011年、液体電解質を上回る性能の固体電解質の発見。組成はLi10GeP2S12
 その結晶構造は、GeとPとSががっちりとした結晶構造を取っており、一部のLiイオンがまるで液体の様に動いていた。
ただし性能(エネルギー密度、出力密度)はリチウムイオン電池を上回ったが、高価なGeを使っているのが問題。

ブレイクスルー2:
2016年、Geを使わずに更に高性能な電解質を開発。その組成はLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3

Geの代わりにSiを使いほんのわずかの塩素を加えたところ、それまでの性能を上回る固体電解質が得られた。

この電解質を大強度陽子加速器施設「J-PARC」の粉末中性子解析装置を使ってリチウムイオンの分布状態を調べるとGeが有るときよりもより3次元的に広がっている。

また熱的な安定性に関しても、通常の(液体電解質の)リチウムイオン電池は60度での使用とされているが、今回の組成の固体電解質は150度くらいでも十分使える。(そもそも粉末を500度に焼いて作る)
また耐久性である充放電回数も100度での結果では1000回でも全く劣化しない。

ブレイクスルー3:
性能を低下させる界面の問題を解決。
電流が流れやすい電解質は出来たが、作った電池は思ったより電流が流れなかった。
この原因は酸化物(正極のコバルト酸リチウム)の方が硫化物(開発した固体電解質)よりリチウムイオンを引きつける力が強い為、正極に接触している電解質の界面部分のリチウムイオンが正極に引き抜かれリチウムイオンの無い空間が出来、不均一な固体電解質となっているためであった。
そこでNIMSの高田氏は両者間にチタン酸リチウムの薄膜(数ナノメートルのLiTi5O12)を導入することで、通常の3倍(600w/kg)の出力が得られた。

ただし現在その膜の働きの原理はまだわかっていないという。

現在この原理の解明中であり、解明されれば更に高性能な全個体電池の開発につながると考えられている。

尚、
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2018年6月15日付で、全固体リチウムイオン電池を早期実用化するための研究開発プロジェクトの第2期をスタートさせた。
その声明文は以下の通り。
「本プロジェクトでは、自動車・蓄電池・材料メーカー23社および大学・公的研究機関15法人が連携・協調し、全固体リチウムイオン電池のボトルネック課題を解決する要素技術を確立しつつ、プロトタイプセルを用いて新材料の特性や量産プロセス・EV搭載への適合性を評価する技術を開発します。また、日本主導による国際規格化を念頭に置いた安全性・耐久性の試験評価法を開発します。さらに、研究開発と並行して、電動車両が大量普及する将来の社会システムのシナリオ・デザインを検討します。」

<参考サイト>
次世代電池を牽引する、全固体電池開発
Nature Energy 2016年4月)
トヨタと東京工業大が開発する全固体電池の登場はエンジンを場外に送るか    (Motor Fan 2017/08/11)
全固体電池の菅野教授が語る、EVはこう進化する。 次世代電池の“本命”はリチウムイオン電池の限界を超えるか。
(日経ビジネス 2018年1月17日)

 

最後に
トヨタ自動車は全個体電池を搭載したEVを2022年に発売すると発表している。
番組では、全固体電池の開発が登山に例えるならほぼ9合目に来たと菅野教授は述べておられるが、番組で公開出来ない部分もあるはずなので、トヨタ及び他の会社での車載用電池としての性能、製造プロセス等相当進んでいると思われる。
今後外国勢(特にドイツ、中国)の情報も含め、車載電池の先端状況に注目してゆきたい。

 

 

 

 

リチウムイオン電池を大幅に超えるリチウム空気電池、ソフトバンクも参入

現在繰り返し使えるバッテリー(二次電池)はリチウムイオン電池が主流を占めているが、
電解質に有機性の液体を使用していることから発火や爆発等の安全性の問題があり、
さらにエコカーへの車載用電池としては蓄電容量(走行距離)や、耐久性(繰り返し充放電回数)が不十分とされ、更に高性能な電池が期待されている。

この期待に応じられるバッテリーとして、現在電解質に無機系個体電解質を使用する全個体電池の開発が、2022年頃の実用化を目指してトヨタ自動車を先頭に各社で進められている。これらの件についてはこれまでのブログで述べてきた。
(最新情報としては、非車載用の小型電池ではTDKが今年6月から生産予定とのこと)

一方、この全固体リチウムイオン電池は正極に希少資源のコバルトを使うという点や容量密度(走行距離)がまだ不十分のため、更にこれらの問題点を解決し、課題に対応し得る可能性のある電池として理論エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の5-10倍のリチウム-空気電池がある。(図の金属ー空気電池の領域)


このリチウム-空気電池は負極にリチウム金属を用い、正極に空気中の酸素を利用するもので、「究極の二次電池」とも言われ、現在世界的に研究開発が進められている。

物質・材料研究機構(NIMS)で開発されたリチウム空気二次電池の原理模式図


正極の空気(酸素)極、セパレータ―、負極のリチウム金属からなるシンプルな構造となっている。
この電池はコバルト等の希少資源を使う必要がなく、負極物質は空気を原料とするもので現行のリチウムイオン電池に比べて大幅な軽量化とコストダウンが期待されている。

リチウム空気電池の基本反応
放電(電気の取り出し)では、負極のリチウム金属からリチウムが溶けだし、リチウムがプラスイオンとなり、その時放出される電子が電流として外部回路に流れ仕事をする。
リチウムイオン(Li)の方はセパレータ―を通り、正極(多孔性カーボン)に達し空気中の酸素(O)と反応して過酸化リチウム(Li)となり正極の多孔性カーボン上に析出する。
充電は、外部からの電気エネルギーにより放電の逆つまり正極に蓄積した過酸化リチウムをリチウムイオンと酸素に分解し、陰極にリチウム金属にして戻す反応。

期待されるこのリチウム空気電池には以下の課題があった。
1)理論大容量の実現、
2)低いエネルギー効率と、短寿命

これらの課題に対して、NIMSは下の取り組みを行い大幅に改善した。
1)大容量の実現
正極のカーボンに不織布状のCNT(カーボンナノチューブ)シートの採用により達成。
これはCNT不織布の大きな表面積と柔軟な構造の寄与により、酸素の通りがよく、放電反応による過酸化リチウムが表面に析出してもCNTが変形し析出反応が制限されなくなった為と考えられている。また充電により元の形状に戻るため繰り返し回数の増加に寄与している。下図がその様子を示している。

2)低いエネルギー効率と短寿命
低いエネルギー効率の原因は、過酸化リチウムの分解が起こりにくいため充電電圧(過酸化リチウムの分解電圧)が放電電圧より高くなることによる。
また短寿命の原因は、充電時過酸化リチウムが分解されリチウム金属として負極に析出する際に、デンドライト状(樹枝状)になり、リチウム金属を劣化させると共に短絡を生じる。

この問題に対し、2017年7月31日、物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは同電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する新たな電解液を開発したと発表した。

新しく開発された電解液は、臭化リチウム(Li)と硝酸リチウム(LNO)を含む混合電解これによって、充電電圧が3.5Vに、エネルギー効率の値77%まで大幅に向上した。
また、寿命低下の一因とされていたリチウム金属の樹枝状物質(デンドライト)の析出も防止することで、従来20回以下であった充放電サイクルを50回以上(現在はもっと大きな数字となっていると思われる)まで向上させた。

下の画像で概況を知り、正確には参考サイト2をご参照ください。


 

 

 

 

 

 

今年2018年4月11日ソフトバンク物質・材料研究機構(NIMS)は、今後のIoT時代に向けての各種デバイスやあらゆる産業に必要となる高性能電池の開発を目指し、先端技術開発センターを設置リチウム空気電池を共同で開発に着手すると発表した。(参考サイト3,4

これまでも数々の投資を行って成功させてきたソフトバンクが参入することで、リチウム空気電池の開発が一気に進む可能性もある。

一方トヨタ自動車は、車載用として全個体リチウムイオン電池を2020初頭に開発するとされていたが、リチウム空気電池も開発しており、その圧倒的容量の大きさ(走行距離)から今後の進展次第では車載用電池の実現が意外に早く来るかもしれない。

全個体電池、他の金属も含めてリチウム空気電池の今後の進展に注目していきたい。

 

<参考サイト>
1.(CNT不織布の正極)
  容量はリチウムイオン電池の15倍、超高容量の「空気電池」を開発 
2.(新電解液)
  リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する電解液を開発
3.(SBNIMS)①
  究極の“リチウム空気電池”、ソフトバンクとNIMSが共同開発へ
4.(SBNIMS)②
   リチウム空気電池! ソフトバンクと物質・材料研究機構NIMSが共同開発に着手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電気自動車(EV)用「全固体電池」が進化中

ガソリン車に変わる次世代のエコカーとして10年程前まではFCV(燃料電池車)が本命視され、水素供給基地等のインフラが整備されるまでの繋ぎとして、ハイブリッド車(HV)が位置するだろうと考えられていた時期があった。
電気自動車(EV)は電池が高価でその性能が低く、航続距離がガソリン車と太刀打ち出来なかったためだ。

しかし電池(リチウムイオン電池)の性能が上がり、環境対策として欧米の政策や大消費国中国の国策等の影響から、近年世界の潮流は圧倒的に電気自動車(EV)が主流になって来た。
それでこれまでHV、PHV、EVと距離を置いていた(かのように見えた)トヨタも大勢力をつぎ込みEVの開発に乗り出した。
そして車載用電池としてリチウムイオン電池に換わる全固体型電池が本命視している。

現在エコカーと呼ばれているハイブリッド車(HV)、プラグインHV車(PHV)、そして電気自動車(EV)はいずれもリチウムイオン電池を使用している。

そのリチウムイオン電池はリチウムイオンの通り道として現在は有機液体電解質が使われており、電池性能として航続距離が短い、充電時間が長い、そして液漏れや発火等の安全性の問題があるとされている。

特に安全性の問題に関しては燃えない物質でできないか、液漏れしない固体できないかと20年以上前から考えられていたのだが、リチウムイオンがスムーズに流れる(イオン伝導率が高い)固体電解質の開発が成功しなかった。

◯固体電解質の開発
2011年トヨタと東工大の菅野了次教授(参考2-1)が共同で従来の液体電解質よりリチウムイオンを通し易い新しい固体電解質を開発した。リチウムイオンの通り易さを示すイオン伝導率の数値で従来の電解液を超えた。
更に2016年には塩素イオンを加えることによりイオン伝導率が従来の液体の電解液に較べて2倍、出力は3倍以上となった。
イオンが動きやすくなると電池の出力が高まり、EVでの発進や加速などが向上することが期待される。
これで全固体型蓄電池(参考2-2)の可能性が一気に高まった。
充放電を1000回繰り返しても容量は殆ど落ちなかった。
急速充電の可能性も期待される

◯負極材料の開発
物質・材料研究機構の高田副拠点長は従来一般的に使われてきた炭素をシリコンに置き換えた新しい負極を開発した。
この負極は容量が既存のリチウムイオン電池の約10倍となり電池全体の容量は1.5倍に増大した。
但しシリコンは充電する時に体積が4倍に膨らむためこれを抑制した上での産化技術が検討されている。

◯正極材料の開発
大阪府立大学の辰巳教授らは、正極材料に硫化リチウムを混ぜた物を使用し、リチウムイオンを動きやすくした。結果正極の容量も2倍超となった。この試作電池はでは2000回の充放電の繰り返しにも劣化しなかった。

◯更なる耐久性向上
太陽誘電は電極材料のコバルトを電解質にも加え、固体電解質を電極と一緒に焼き固めた電池を試作し、4000回の充放電を繰り返しても当初の8割の容量を保つことを確認した。

上記の様に期待を集める全固体型リチウムイオン電池だが、固体電解質にはまだ
1.急速充電で内部に結晶(デンドライト)ができショートする問題
2.開発された固体電解質は硫黄を含んでいるため空気中の水分に触れるとガスが発生する等の問題がある。
これらの問題解決の先には更に量産化技術の確立が控えている。
これら成果と問題を俯瞰しながら、自動車会社、化学系各社が競って固体電解質使用の
全固体リチウムイオン電池の開発を競っている。

  上記の現状まとめ(12/9日経産業新聞参考)

高出力全固体電池の開発の現状と将来性
特性 リチウム

イオン電池

全固体電池
現在 将来
出力 新材料で改善
容量 電極要改善
寿命 一部十分な結果あり
急速充電 内部結晶発生
量産 水分でガス発生

上記の様に現状は全固体型電池は開発途上であり、特に化学反応のメカニズム解明が必要と考えられている。

 

EV で出遅れていたトヨタは2020年代前半までの実用化に向け、EV用次世代バッテリー「全固体電池」の開発を急いでいる。


そしてハイブリッド車(HV)などを含めた電動車の販売を2030年ころに全販売台数の50%程度まで引き上げる計画を明らかにした。具体的には、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)で100万台、HVとプラグインハイブリッド車(PHV)で450万台、合計550万台の電動車販売を目指す。

またEVを2010年に出していた日産は20年代の後半に固体電池での実用化を目指すとしている。
全固体電池は、自動車メーカー以外にも様々な企業が研究に取り組んでいる。
西独ボッシュ、村田製作所、日本特殊陶業等。
更にあの家電の英ダイソンが全固体電池を載せたEVを20年までに売り出すそうだ。

今後各社の全固体電池関連ニュースに注目して行きたい。

 

<参考資料等>
1.そもそもリチウム電池とは(リチウム電池の基礎)(おさらい)
リチウムイオン電池の豆知識
全固体電池って何だろう?
③リチウムイオン二次電池(ウィキペディア)

2.固体電池の理解に役立つお薦めサイト
参考1.菅野教授が語る、EVはこう進化する
参考2.EV向け本命 5分で完全理解「全固体電池」.
参考3リチウムイオン電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体電池を開発

3.トヨタとパナソニックの提携発表
トヨタとパナソニックが車載用角形電池事業の協業について検討を開始
そもそもトヨタは現在のどの会社よりも早く電池開発に関心をもっていたのだ。
(自動織機を開発した豊田佐吉は1925年、革新的な電池の発明に資本金と同じ金額(当時の100万円)の賞金を掛けていた。)