最近の量子コンピューターの話題にやや影を潜めていた感のあったスーパーコンピューター(以下スパコン)ですが、先日理化学研究所がポスト「京」の運用開始を21年からと発表し、またスパコンのニュースが増えて来そうです。
スパコンの計算速度については、1993年から年2回世界の上位500台のランキング(TOP500)が発表されてきました。
当初はずっと米国クレイ社製が占めていましたが、日本が2002年に「地球シミュレーター」で、また2011年には「京」でトップを占めました。
しかし近年は中国の躍進が著しく10年と13から17年まで4年連続して中国がトップを占めました。
世界のスパコンの順位の変遷とスパコンによる大型製品開発の例は以下の図がわかりやすいですね。
理研のサイトより
ただし今年2018年6月25日の発表では、再び米国のIBMの「Summit」がトップに返り咲きそれと3位を、また中国は2位と4位を占め、日本は産総研のAI専用スパコン「ABCI」(富士通)が5位になったものの、「京」は16位になっていました。
TOP500にランクインしたスパコン台数については、
中国は速度争いではトップを逃したものの206台とダントツで、米国の124台、
3位の日本の36台を大きく上回っています。
一方、
単純な計算速度を競うTOP500に対し、消費電力あたりの計算速度を測る「グリーン500」では日本が1位から3位を独占し、更に10位以内に6件が入っており、
速度では負けても小規模パスパコンの省エネの技術面では優位性を保っている状況ではあります。
(因みに1位は、理化学研究所の情報基盤センターに設置されている「Shoubu(菖蒲)system B」。2位は大学共同利用機関法人の高エネルギー加速器研究機構(KEK)に設置されている「Suiren(睡蓮)2」、3位はPEZY Computing社内に設置されている「Sakura(桜)」
最先端のスーパーコンピュータは、科学技術の振興、産業競争力の強化、国民生活の安全・ 安心の確保等に不可欠な「国家基幹技術」であり、上図で見たように各国がその開発競争にしのぎを削っています。
日本としても、諸外国に対して競争力のあるシステムの開発を進める必要があり、ポスト「京」開発のために文科省は「フラッグシップ2020」(世界トップレベルの性能 を有し、幅広い分野をカバーするシステム)としてポスト「京」開発のプロジェクトを立ち上げました。
以下ポスト「京」についての開発計画をご紹介しますが、
その前に
1.まずはスパコンのおさらい(不要な人はスルーして下さい)。
①「スパコンって何がすごいの」
(非常にわかりやすい解説ですが2011年の資料ですので、ランキングは無視してくださいね。)
②これは会社の宣伝サイトではありますが、最新情報も入れた一般受けする項目で非常に分かり易くかかれています。
「日本の誇るスーパーコンピュータ「京」!スペックやできることを紹介」
これからスパコン状況について
2.最初に日本のスパコンが世界トップになったのは、
2002年の「地球シミュレーター」でした。
3.次のトップは
2012年9月末に本格稼働したスーパーコンピュータ「京」です。
当初は10ペタフロップスという1秒間に1京回(1兆の1万倍)の計算が可能な驚くべき性能でした。
①この「京」の全体については
理研計算科学研究センターのサイトをご参照
②また開発、製造、据え付けの様子や、新たに開発したネットワークの構造ついては動画サイト「スーパーコンピュータ「京」の開発」から
(しかし2018.6現在はのTOP500では16位となりました)
更に
4.スパコンによる成果について
①2011、12年のゴードンベル賞受賞
②理研サイトより
③HPCIコンソーシアムサイトより
5.スパコンの評価には
①速さを競うTOP500
②省エネ性(エネルギー消費効率の良さ)を競うGreen500
③グラフ処理 における速度を評価するGraph500
等があります。参考サイト
それではいよいよ本論のポスト「京」の開発計画に入ります。
計画の概要を最初にざっと要約しておきます。
<事業の目的>
◯我が国が直面する課題に対応するため、2021年の運用開始を目標に、世界最高水準の汎用性のあるスーパーコンピュータの実現を目指す。
<事業の概要>
〇最大で「京」の100倍のアプリケーション 実効性能を目指す。
〇 低消費電力型:30~40MW(因みに「京」は12.7MW)
◯開発費:約1,300億円(内国費1100億円)
<開発の主体>
理化学研究所(理研)と富士通
<目指すシステムの特徴>
下記項目において世界最高水準レベルを備え、総合力で卓抜するレベルの製品
①消費電力性能 ②計算能力 ③ユーザーの利便・使い勝手の良さ ④画期的な成果の創出
<ポスト「京」の開発スケジュール>
2014年:基本設計開始、2015年:詳細設計開始、2018年:製造開始し
2021年:運用開始(の予定ですが・・・)
<重点課題>
以下の5つのジャンル
①健康長寿社会の実現、
②防災・環境問題、
③エネルギー問題、
④産業競争力の強化、
⑤基礎科学の発展
の内、9つの重点課題から構成されています。
理研のサイトより
<期待される成果例>
(文科省)「ポスト「京」」の開発プロジェクト について」の14頁~18頁に、京以前、京での現在、ポスト「京」の将来像を画像入で分かりやすく説明されているのが分かり易いかもしれません。
概要は以上です。
ですが、
実際各ポスト「京」プロジェクトの詳細なサイト(文書)を読んで理解するのは大変です。
従って
1.先ず動画で理研の全体把握
2.次いで本文の「ポスト「京」プロジェクト」で追認
3.そして文部科学省の
「フラッグシップ2020プロジェクト(ポスト「京」の開発)について」でより理解。
4.その後の開発の進捗状況及び
「コスト及び性能の評価に係る報告」
5.ポスト「京」への移行に伴う京の運行停止に関する内容及び
最新での最新(H30.1)情報「ポスト「京」の開発計画等について」
の順で追っていけば全貌がわかるのではと思いますが・・・
最後に
ポスト「京」は2021年に稼働予定ですので、それ迄TOP500では中国(天河3号等)と米国スパコンのトップ争いが続くと予想されます。
その間日本のどんな高性能スパコンが出現するのかまた小規模でも省エネ性に優れたスパコンが「Green500」での上位を占め続けるか注目して行きたいと思います。
次(11月)のスパコンランキングの発表(年末)がたのしみです。
<この記事の後のスパコンに関する情報>
2019年8月30日
・スパコン「京」がシャットダウン 7年の歴史に幕
京は近く解体が始まり、同じ場所に後継のスパコン「富岳(ふがく)」が設置される
2018年11月27日
・スパコンの性能ランキングに地殻変動が起きている
中国勢が陥落