全固体電池の開発は3つのブレイクスルーで9合目迄来た

先日のNHK-Eテレ「サイエンスZERO]での全固体電池の開発に関する番組の概要を紹介したい。

冒頭EV自動車レースの場面が展開されるが、この部分は、現状のバッテリーをEV自動車レースに使うとバッテリーが大きい、充電時間が長い、高速走行では持続時間が短くなる(即ち航続距離が短縮)等の現在のリチウムイオン電池での問題を視聴者に分かりやすく見せたもの。

これら現状のリチウムイオン電池の問題は、電解質に可燃性液体を使っているためであるが、その問題の有力な解決方法として、固体の電解質を使う全固体電池が考えられている。

東工大の菅野了次教授は、30年も前からこの固体電解質でのリチウムイオン電池を研究している。

しかし研究開始から10年たった1991年、液体の電解質を使ったリチウムイオン電池が実用化され、現在主流の二次電池として各所に使われているのは周知の通り。
スマホやパソコン等のIT機器で普通に使うにははほぼ十分な性能ではある。(より短時間での充電、長時間の使用等の要望はあるが)
その開発者の一人吉野彰氏は今年、日本版ノーベル賞ともいえる日本国際賞を受賞した。

そんな中、菅野教授は固体にこだわり続け、最近実用一歩手前(9合目)まで来たという

その背景には3つのブレイクスルーがあった。
ブレイクスルー1:
2011年液体電解質を上回る性能の固体電解質の発見。組成はLi10GeP2S12
 その結晶構造は、GeとPとSががっちりとした結晶構造を取っており、一部のLiイオンがまるで液体の様に動いている。
図1
性能(エネルギー密度、出力密度)はリチウムイオン電池を上回ったが、高価なGeを使っているのが問題。

ブレイクスルー2:
2016年Geを使わず更に高性能な電解質の開発、その組成はLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3
Geの代わりにSiを使いほんのわずかの塩素Clを加えたところ、それまでの性能を上回る固体電解質が得られた。
図2
この電解質を「J-PARC」(大強度陽子加速器施設)の粉末中性子解析装置を使ってリチウムイオンの分布状態を調べるとGeが有るときよりもより更に3次元的に広がっている
図3
また熱的な安定性に関しても、通常の(液体電解質の)リチウムイオン電池は60度での使用とされているが、今回の組成の固体電解質は150度くらいでも十分使える。(そもそも粉末を500度に焼いて作る)
また耐久性である充放電回数も100度での結果では1000回でも全く劣化しない。
図3-1

ブレイクスルー3: 性能を低下させる界面の問題を解決。
いい(電流が流れやすい)電解質は出来たが、作った電池は思ったより電流が流れなかった。
この原因は酸化物(正極のコバルト酸リチウム)の方が硫化物(開発した固体電解質)よりリチウムイオンを引きつける力が強いため、正極に接触している電解質の界面部分のリチウムイオンが正極に引き抜かれリチウムイオンの無い空間が出来、不均一な固体電解質となっているためであった。
そこでNIMSの高田氏は両者間にチタン酸リチウムの薄膜(数ナノメートル厚のLiTi5O12を導入することで、通常の3倍(600w/kg)の出力が得られた。
図4
ただし現在その膜の働きの原理はわかっていないという。
現在はこの解明とともに使いやすい電池の製造プロセスも開発中。

 

尚、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は
2018年6月15日付で、全固体リチウムイオン電池を早期実用化するための研究開発プロジェクトの第2期をスタートさせた。
その声明文は以下の通り。
「本プロジェクトでは、自動車・蓄電池・材料メーカー23社および大学・公的研究機関15法人が連携・協調し、全固体リチウムイオン電池のボトルネック課題を解決する要素技術を確立しつつ、プロトタイプセルを用いて新材料の特性や量産プロセス・EV搭載への適合性を評価する技術を開発します。また、日本主導による国際規格化を念頭に置いた安全性・耐久性の試験評価法を開発します。さらに、研究開発と並行して、電動車両が大量普及する将来の社会システムのシナリオ・デザインを検討します。」

<参考サイト>
次世代電池を牽引する、全固体電池開発
(2016年4月)

トヨタと東京工業大が開発する全固体電池の登場はエンジンを場外に送るか
(2017/08/11)

電気自動車の充電時間を短縮できる全固体電池、トヨタと東工大が開発
2016年03月23日