ハーバー・ボッシュ法に代わる新アンモニア合成法

アンモニアはハーバー・ボッシュ法により現在世界で年間約1.7億トンが生産されその8割が肥料用(つまり食料増産)に向けられ、その他食品や医薬品原料として使用されている。

バーバー・ボッシュ法は、100年前にドイツで開発され、空気中の窒素と別途調達された水素を鉄系触媒下、高温(400~600℃)・高圧(100~200気圧)で作る方法であるが、現在まで製法は殆ど変わっていない。

このハーバー・ボッシュ法は大量生産には向いているが、大量のエネルギーを必要とし、また製造設備も莫大な費用が掛かるのが問題であった。

そこで世界中の化学者が新しい方法を探索するなかで、次の2つの技術の組み合わせで小規模生産型の新たな技術が注目されている。

1.新触媒
HB法では鉄系触媒を使用しているが高収率のため上記したように高温高圧の条件が必要であった。
これに対し、東工大の細野教授らは、セメント成分でもあるエレクトライドという酸化カルシウム、アルミナなどの化合物をベースにルテニウムの粒子をつけた触媒により、50気圧以下、300~350℃でアンモニアが合成できる触媒を開発した。(前回ブログご参照)

2.アンモニア分離ゼオライト膜
三菱ケミカルはアンモニアの合成反応で、反応静止物であるアンモニアだけを効率よく通し、未反応物質である水素や窒素をとおさない膜(ゼオライト膜)を開発した。
ただ、ゼオライト膜は本質的に高温・高圧に弱く、現状のハーバー・ボッシュ法には適用出来ない。
そこで東工大の触媒に着目し両者を組み合わせ小型で高い反応収率が得られる技術を開発した。
この技術によると、現状のハーバー・ボッシュ法の収率20~30%を大幅に上回る70%以上の収率が得られた。

この技術を使えば、現在の一箇所での集中大量生産方式から、ドラム缶程度の大きさでも年間数千トンのアンモニが生産出来るという。分散型生産になれば、大型設備や運搬が不要になる可能性を秘めている。

小型設備で容易にアンモニアが生産出来るようになれば、輸送コストが掛からない消費地(肥料として農業地区、工業原料として工場)での生産スタイルになることが考えられる。


アンモニア合成を促進する触媒については、細野教授が当初開発したエレクトライド(Ru・C12A7))以後も各種新触媒が開発されている。
例としては、バリウムを少量加えたカルシウムアミド(Ba-Ca(NH2)2)にルテニウムのナノ粒子を固定化した触媒、
東工大フロンティア材料研究所の原亨和教授と元素戦略センターの北野政明准教授の研究グループらによる新たなエレクトライドRu/Ca2N、

また科学技術振興機構(JST)、東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)らは、貴金属ではないランタンとコバルト、シリコンの金属間化合物(LaCoSi)を開発等がある。

更には東京大学、九州大学、科学技術振興機構(JST)によるニトロゲナーゼと呼ばれる酵素をモデルとした常温・常圧という温和な条件で窒素ガスをアンモニアへと変換する触媒の開発も進んでいる。

現在すでに上記の様にハーバー・ボッシュ法に取って代わる能力ある触媒の開発競争状態となってはいるが、今後更に新しい触媒も開発されると予想される。

最終的には、総合的に1つの触媒による方式となるか、各触媒に適した生産方式で棲み分けになるのか興味深いところではある。

私的には、マメ科植物の根に共生して窒素を固定する根粒菌のバイオミメティクスによる触媒を用いる生産方式を期待している。(昔のレンゲ畑はこの根粒菌が目的だったのです)

 

<参考サイト>
低温で高効率にアンモニアを合成できる触媒を開発、現行の工業用触媒に比べて3倍以上
ゼオライト膜
東工大など、貴金属を使わない金属間化合物アンモニア合成触媒を開発(LaCoSi)
世界最高の活性を示すアンモニア合成触媒の開発に成功(ニトロゲナーゼ模倣)
(~モリブデン錯体を触媒とした常温・常圧での窒素固定反応~)
アンモニア合成を通して人類を支えた研究者たち

投稿者: taiga

化学系会社で研究所、工場、本社で各種素材・製品開発、技術営業に従事後 水処理も経験 先端科学、最新技術が好きな中高年男性。既婚 趣味:テニス、将棋、カラオケ、トレッキング、公園散策、

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